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Posted : 90/12/14 19:42
From   : JN1KXV
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Subject:  新連載  「サーキットのイヌ」  第2幕  バシコ

週末の湾岸地域は走り屋とギャラリーで賑やかだ。
峠は遠くて行けないし高速では最高速度不足といった都会派の連中は
自然と埋め立て地へ集まるようになった。
湾岸では峠と違ってそれぞれ得意な場所で走る事ができる。
2輪と4輪の混走、ブラインドコーナーの連続、対向一般車の危険、事故時の対応時間
そういった峠での諸問題を解決しているともいえる。
しかし所詮、公道を舞台にしたもの・・・  一般への迷惑が0ではない。
でも、そこまで考えられる大人はそんな場所へは走りに行きはしないのであった。

その日も正田は船橋港  −通称「バシコー」−  へ出掛けていた。
黒いスターレットには4点式のシートベルト・・・  だが、あんまりしたことはない
スピードメーターの前にはブースト計。おかげでスピードが140kmを越えないと
速度が読めない。まぬけな正田の隣には一見高校生のような彼女がいつも座っていた。
しかしその日正田と一緒に来ていたのは同じ研究室のアル中、窪田  −通称  くぼっちぃ
−*3であった。
「今日こそはあのロータスをアオリまくって縁石へ送ってやるん」
正田は群馬なまりでくぼっちぃにそう言った。
「このFFスターレットごときで?  ロータスヨーロッパを?  うへへへ  へへっ」
しばらくの間二人はみんなの走りを見ていた。
正田はここ2週間、そのロータスヨーロッパにあおられっぱなしなのであった。
理由として「彼女がとなりにいるから」と逃げていたが、思い切り攻められないのも
事実であった。
「あのレビンが速いんヨ」コースを攻めている車を見て正田がそう言った。
「郁馬のレビンで勝負すれば?」
「92じゃ勝てないん。少なくともココじゃ」「フーンそんなもんかね」
「FFはまがんないん。つっこむのはほとんど92レビンかジビックなん」
「じゃコレはダメなんじゃないのぉ?  へへへっ」くぼっちぃは正田のスターレット
を蹴飛ばした。「足回りがちがうん。郁馬のレビンはどノーマルなん」
その時ギャラリーがロータスを発見したらしく数人がそちらへ走って行った。
「きた!」
白のロータスヨーロッパに赤いライン。大きなリアウイング。やつに間違いない。
正田はくぼっちぃを車に乗せるとコースへ入った。
「ロータスのやつがコースインしてくるまでにウオームアップするん」
ロータスは路肩に止まった。中からは前時代的なスタイルの長髪男が現れた。
ボンネットの赤いラインにはいくつもの星がきざんであった。
ウワサによると今までに交換した部品点数らしい・・・
周回をつづける正田は
このロータスの男が今日このバシコーで、ある男と決着をつけに着たということを
知らなかった。 *1
つづく

Posted : 91/04/13 23:07 ← すでに1話から四ヵ月たっている
From   : JN1KXV
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Subject:  おまたせサーキット ノ イヌ

「おいおい、あのロータスヨーロッパ・・・」
その日偶然ギャラリーとしてバシコーに来ていたタカシがジンジンの肩を引っ張った。
「ん??・・・ゲケツ」
ジンジンはロータスを見るとかなり驚いた様子で、一瞬動きを止めた。
「スタビライザー直したのかな??」
タカシは結構落ち着いた表情であるが実は内心ビビッているのだ。
「更正したのかな」
「でもなーあの髪型にベルボトムのジーンズじゃあ当時のままだぜ・・・」

ロータスから降りてきた男は間違いなくフブキユーヤである。
よくよく見てみると助手席にはミキの姿もあった。
ずいぶん昔に行われた『街道グランプリ』*4以来マジの走りをあのハヤセにまでコケ
にされたためにフブキはグレてしまったのであった。
あの直後フブキはロータスプレイヤーという暴走族を結成、ハヤセのナチス軍の向こ
うをはったつもりだったのだがナチス軍はフブキが知らない間に解散していたのであ
った。
怒りのやり場を失ったフブキは荒れ狂い、関係ない横浜の族「アルファルファ」を
殲滅し、バツとテリーさえも倒したとか倒さなかったとか・・・
しかしその後しばらくは消息を断っていたのだった。
ウワサではフブキの義理の兄であるプロレーサー、アスカミノルが、スポンサーのヒロ
セ電機の倒産にともない自動車修理工になったため、コズカイが不足してロータスの
フロントスタビライザーを直す金がなくなったのだろうという事だった。
柴又方面では通称「ロータスの墓場」と呼ばれている駐車場でフブキのロータスを見
たという勝手なウワサさえあったのだ。

そのフブキが・・・なぜ・・・

しばらく走っている車を見ていたフブキは、「むう」と唸るとロータスに乗りコース
インしていった。
「なんかペースが上がったん」
正ちゃんはハンドルをグリグリしながらつぶやいた。
「うへへへ、ロータスがいなくなってるよ」
外を見る余裕のない正田の代りにクボッちいがロータスの様子を見ていた。
「あぁ??いなくなったぁ?」
正田は一瞬クボッちいの言っている意味がわからず、そのまままたハンドルをグリグ
リした。知能がかなりドライビングに使われているため直線加速時にしか会話が出来
ない。まるでTSS端末の様だ。
「それは、ヤツがコースインしたっていうことなん」
正田はブレーキングポイントまでの短い時間で的確な解答を出した。バシコーの直線
部分は4,50mしかないためちょっとペースが上がるとかなりせわしなくなる。
「だんだん・・・上がってきてるん」
ハイペースについて来れなくなった車が抜けていくせいかペースの割に走りやすい。
 正田の知能の85%がドライビングに使われたその時、前を走っていたレビンが
パワーをかけすぎてスピン。レビンのヘッドライトの光が視界を駆け抜けていった。
「あぶないん!」
正田はクイックなハンドルさばきでレビンをかわした。レビンもギアを素早くバック
にいれるとグリグリきり返しアッという間にコースに復帰した。
「ほほほほ、やっぱりロータスのやつ走ってるよ」
クボッちいが、対向車線でシビックを追いまくっているロータスを発見した。
「ドン!」
見ているまにシビックがフラれてコースアウト。前タイヤを縁石に激しくぶつけ、
つんのめった。
「やった!」

ギャラリーが一瞬にしてシビックを取り囲んだ。シビックがジャマになるので、否応
無しにペースは落ちる。ところが、ロータスはギャラリーをも弾き飛ばさんばかりに
コーナーを攻めたてている。一台、また一台・・・ロータスのぺースについていけな
い車が次々と戦列を離れていった。
「ショーチャン、ショーチャン後ろにロータスが来たよ、うへへへ」
「わかってるん・・・」
「それとねー、走っているのねーあとは前にいるZだけだよよよーん」
「・・・??ル??   *2

硬直状態が続いていた・・・ もう独占状態で何周回ったであろうか、ギャラリーにすら
疲れが見えてきた。突然Zが戦線離脱。
「しょーちゃん、Zはやめちゃったよ」
クボっちいがそうつぶやいたが、正田はコーナリングの最中で言葉が理解できなかった。
直線部分に出た時、AD変換してメモリにストアしてあったクボッちいの声を再生した正
田は、ついに二台で勝負!の状態にある事を知った。
「これからが勝負なん」
でもそれが命取りになった。意気込んだ正田は次のコーナーで呆気なく立木にささって
しまったのだ。
「あーーっささったささった!」ギャラリーがスターレットの周りに群がった。
「やっぱりブレーキふんだままじゃまがれないん」正田は自分のミスを認めた。
コースはギャラリーで埋まり、ロータスも走るのをやめた。
「むう」ロータスからおりたフブキは若干白髪のまざった長髪を風になびかせ、群がる
ギャラリーをながめていた。
「あー、これは高いん」スターレットの前輪は縁石にぶつかった衝撃で変な方向に
曲がっている。車体は倒れた立木に乗り上げ、事実上走行不可能の状態だ。
とりあえず車体を地面に下ろす作業にとりかかった。ギャラリーは作業員に変身する。
「せーの」勝手に現場監督になった一人のギャラリーが声をかけるとスターレットは
難なく路面におりた。くぼっちいと正田は腕を組んでその作業に見入っていたが、
ギャラリーに「オメーの車だろが」といった顔をされとりあえず車の横に移動した。
バンパーからグリルまでがへこみ、前足周りがかなりやられていた。
「エンジン、ラジエータがいってないのが不幸中の幸いなん」「でもこれどーやって
うごかすの? うへへへへっ」くぼっちいはあいかわらずヘラヘラした笑い声をだして
いる。正田も当事者のわりには平気な顔をしている。オヤジの金で車両保険に入っている
から大してイタくはないのであった。
 

作者−註−
*1 あまりに間をあけたので作者も誰と勝負しに来たのか忘れてしまった。
*2 書き込んでいる最中に何かがおきて、そのままほっぽらかした。
*3 ヤスコの元彼氏のくぼっちいでは無い
*4 サーキットのイヌ一作目で行われた環七を10周するレース
   サーキットの狼の「公道グランプリ」とは無関係
 

「ボンネットの星 の 巻」
ざざざざ。スターレットの周りにいたギャラリーが突然足早に各自の車に戻った。
それとほぼ同時に拡声器の声が響いた。
「ここはレース場じゃないんだーー 帰りなさーい」パトカーだ。
バシコーに集まっていた人間は蜘蛛の子ちらした様にいなくなった。
「むう」フブキもロータスのエンジンをかけ取り合えずその場を離れた。
うーーーー。
パトカーはコースを回ってギャラリーを蹴散らすとスターレットの横に止まった。
「なんだなんだ木倒したのかぁ?」下りてきた警官は、なれなれしく正田に声をかけた。
「ちがうっスよ。木は倒れてたん。そこにつっこんだんスよ。」正田はいい加減に
そう言ったが、顔は真面目な青年を装っている。
「本当かぁ?八時に回った時は木は倒れてなかったぞ。ん?」
警官は今夜始めての警邏のくせに口から出まかせを言う。
「そんな事ないっス。自分は七時半にここに来たんスけどその時既にたおれてたんスよ」
正田も十時すぎに来た癖によくもまあ適当な事を言うものだとくぼっちは感心した。
「そーかぁ?で、車は動くのか?」警官が突然話題を変えたので正田も話題を合わせた。
「あ、いまレッカー待ってるんス」
「単独だが、事故は事故だな・・・ 事故証明とかほしいんだろ?」「お願いしまス」
 そこで現場検証が始まってしまったので、他の連中は走るに走れなくなってしまった。
いつもはすぐにパトカーはいなくなってしまうので、ものの10分もするとまた走り始め
るのだ。戻ってきた連中はコースをゆるりと回り、正田の現場検証を見物しつつまた何処
かへ走り去った。じんじんたちはさっきから現場検証を見物している。
「ここでブレーキかけたわけだな」「そうっス、ただちょっと突っ込みすぎてたんスよね
 でもってロックしちゃって・・・ そのまま、ガーン」
正田は身振り手振りで警官に状況説明をしている。「ここがクリッピングっスよね・・」
正田が大声で説明するので事故状況が良くわかる。
「おいおい、あいつラインどりまで説明してるぞ」XPIが感心している。
「はやくどけよー」IPHは走りが見られないので不満そうだった。
フブキのロータスももう2,3度回ってきていたが、なかなかパトカーがいなくならない
ので、また路肩に車を止めた。フブキは車の中から、なにやらスプレーと型紙を取り出す
とボンネットにのせた。フブキは勝負に勝つと星印を書き込むのであった。
良く見ると既にボンネットはおろか、天井やリアウィングなども星だらけである。
最も新しい星は右フロントフェンダーに書き込まれた。最近フブキが夜にしかバトル
しない理由がここにあった。昼間は恥ずかしくて勝負どころのさわぎではないのだ。
 

作者−註−
連載のあいだをあけ過ぎて前後のつじつまが合わないことがあります。ご注意ください。
 

「ナゾの赤い車 の 巻」
フブキが星を書きおえたころ現場検証も終わり、また少しずつ人が戻ってきた。
正田のスターレットがジャマなのでみんなそのコーナーだけはゆっくりとぬけていく。
フブキは増えた星をしばらくニヤニヤ眺めていたが、コースが活気を取り戻したのに
気づくと早速コースインしていった。
「おっ、またヤツが走り始めた」IPHは今度はどの車が刺さるかとワクワクしている。
徐々にペースが上がってきた。スターレットのいるコーナーでも攻める車が多くなる。
「実力こえろ!」IPHはうれしさでジタバタしている。
「あっちのが危険度高そうだからもどろーよ」三人はスターレットから離れた場所に
移動していたのだが、スターレット脇でのペースが上がったのでそっちに戻る事にした。

彼らにとっては「どんなテクでコーナーをまわるか」より「どんなハデな刺さり方を
するか」のが重要であった。みるみるうちに車がしぼられてきた。
「あー、なんかうまいヤツばっかになっちったなー」「ギャラリー走らないかなー」
「ラグジュアリーなモノ・・・」じんじんが注目していたカリーナEDがゆりかえしを
補正できずに縁石をかじった。
「おしー」EDはそのまま逃げる様にコースから消えていった。
「ねーねー」XPIがじんじんを呼んだ。
「あの、あかいのなんだぁ?」「セブン・・じゃーない・・な」「なんかヘンだよねぇ」
さっきまでは赤い車はRX−7しかいなかったが、今のは違っていた。
RX−7はリトラクタブルだし、だいたいテールランプの形が違っている。その車は
コースに馴染んでくるとなにやらヘンにコーナーを攻めたて始めた。
うまくはないのだが確実に速かった。
「けっこーいい音してるじゃーん」IPHはその赤い車を目で追いながらフンフンうなず
いている。「またロータスと一騎討ちかぁ?」じんじんがそう言った時には既にコースは
ロータス、Z、RX−7、赤いナゾの車の4台だけになっていた。
そのまま、3周位周回を重ねたが、ZとRX−7は確実に赤い車にあおられていたため
同時にコースからはずれてしまった。
「きたきた・・・」IPHの振動数が増えてきた。赤い車はロータスから1/4周遅れて
いたのに、わずか2周で完全に追いついてしまった。
「ちいいっ」ロータスから声が聞こえた。200キロの速度で隣の車と会話するという
伝説は本当だったようだ。
白熱のバトルに見入っていると突然IPHが「エスプレッソ!」と叫んだ。
「じゃない、プレッソだ!」「プレッソ・・・」IPHの声があまりに大きかったので
ギャラリーがざわめき始めた。
「プレッソかぁ・・・」「それなーに?」「やっぱり外車かぁ」「右ハンドルだぜー」
「プレッソってユーノスだろー」「マツダだよマツダ」
「ユーノスって外車じゃないのぉ?」「へんな車」「R1−Z??」「RZ−1!」
「AE−1」「AZ−3だろー」
みんな結局その車の事は知らないのであった。
 

「白熱バトル の 巻」
そのナゾの車プレッソはアグレッシブというより狂気の攻めを見せた。
ムチャクチャともいえるコーナーの突っ込みではロータスとの車間は10センチを
切るまでに接近。カウンターをあてたロータスの脇に突き刺さるかの様だ。
ロータスがミスッて横に流れると、ハイビームになっているプレッソのライトが
助手席にいるミキの顔を照らしていた。
「バシコーでここまで走るやつがいるとは・・・十年ぶりに狼の血が湧きやがるぜぇ」
フブキは突然、不動明王の背の火の如く髪を盛り上がらせた。「うおおおおおおお」
 ロータスが本領発揮で一瞬プレッソを引き離した。プレッソとの車間が1メートル
2メートルと離れていく・・・
「あれは・・・」じんじんがフブキの走りを見て何か思い出した様だ。
「幻の・・・」「多角形コーナリング!」たかしが後を続けた。ロータスは今まで
見たことも無い様な鮮やかなコーナリングでプレッソを引き離していく。イジで攻め
込んでいたプレッソの車体はかなり暴れ始めていた。
ところがある時を境に突然プレッソの走りが変わった。
今までのメチャクチャな攻めがウソの様に消え、まるでレールの上を走っているかの
様なコーナーをぐるりんとそれもクイックに回るコーナリングに変わったのだった。
しかも車体はロールしていない・・・
「なんだなんだぁ?」IPHが理解出来ないといった顔でプレッソをみている。
「まるで4WSだなー」「ほーら後輪もちゃーんと・・」「またまたまたー、うそー」
「うそじゃないって、よーーーーく見てみー」たかしがIPHをうながした。
「ぉえーー? まがった?まがった?」「でしょー4WSだよー」たかしの言うとおり
確かに後輪も操舵されていた。
「みたか、このフブキ様が本気になれば、バシコーのコゾーごときはブッちぎ・・・
・・ うおおおおおお」一瞬離れていたはずのプレッソがまたぶつからんばかりに
迫っているのでフブキはたじろいだ。
その時だった。ギャラリーの一人が缶コーヒーをかかえてフブキの前を横切ったのだが、
かかえていたコーヒーのうち一本が落ちてフブキのロータスの前にころがってきた。
「ちい」フブキは拳ひとつ分ハンドル切ると車線変更してしまうので指一本分くらい
ハンドルを切り、コーヒーを避けた。
つもりだったが、前輪の内側で缶の端を踏んでしまった。ガコガコガコ!はねた缶は
ロータスの腹と路面の間を何回も往復して後ろから吐きだされた。
「ちっちっちっ」走行には影響無かったが避けたと思っていたところに物凄い音が
したのでフブキはあせりまくった。つぎのコーナーで、ロータスは大きくアウトにはらみ
危うくささるところであった。
アウト側にいたギャラリーの何人かが慌てて逃げようとしてコケているようすだ。
「なんかまたプレッソ優勢になってきたなー」「ロータスのやつ疲れてきたのかぁ?」
「ヘタになったよーな気がしないかー?」「するするする」三人は寒さを紛らわすために
ぴょんぴょん飛び跳ねながら口々にそう言った。
しかしIPHだけはワクワクしているために跳ねているのだった。
「むう・・・ ハンドリングが・・・ もしや・・・」フブキは缶に当たってから
思いどおりにならないロータスの動きから原因を考えていた。
「スタビライザーを打ったかッ!!??」
 
 

「縁石ジャンプ の 巻」
「スタビライザーを打ったかッ!!??」
スタビライザーとはフロントフォークの泥除け上に載せる金属製のプレートだ。フロント
まわりの鋼性アップをするパーツでCORINなどで売っている。
(ゼファー用¥9,800.)
なぜそのスタビライザーが自動車のロータスヨーロッパに!!??
待て、次号!

「スタビライザーを打ったかッ!!??」
フブキはしつこく言った。原因は他には浮かばないのだが、断定出来ないので何回も
言っているのかと思ったが、実はちがった。テクでプレッソにあおられているのではない
という事をギャラリーにわからせるために言っていたのだ。
 フブキの声がさっきより良く聞こえるのでおかしいとは思ったのだが、良くみたら
ロータスの窓が開いているではないか。「スタビライザーを打ったかッ!!??」
まただ。
「スタビライザー打ったのかぁ・・・ どーりで。」のでIPHが納得、納得といった
顔でうなずいた。
フブキが、窓の外に向かって大声で独り言を言っているのでたかしが笑いころげた。
 「ほんとにころんだー」
バランスを崩してひっくりかえったたかしは、ぶつけた頭をさすりながら起き上がった。
その時、ひひひひーーというタイヤの鳴き声が響き、続いてドッシャーーン、ゴゴゴゴと
いう激しい音が聞こえた。
「とんだ!とんだ!!」IPHはひとつ先のコーナーへダッシュした。
「えーん、いたくて良く見てなかったよー」たかしも後を追った。

「プレッソの男 の 巻」
よそ見をしたロータスが縁石に突っ込んだようだ。ロータスヨーロッパは裏返しになって
いた。「いててててて」フブキが窓からずりずり出てきた。プレッソはまだエネルギーが
余っているのか勝鬨をあげているのか、ガオガオ無駄に吠えながら一周してくると
ロータスの手前で路肩に止まった。
「フロント、2メートルは上がったぜぇ」「みてなかったよー、くやしーよー」
「きれーに裏がえったもんなー」「ずるいーー」
三人が現場に着いた時は既にギャラリーが人山の黒だかりでなかなかロータスは見え
なかった。が、3人は人をかき分けてロータスのそばまで行った。
「ほら、スタビライザー外れてる」IPHが指さした。左前タイヤはバーストして
足周りも完全に壊れているが、右はスタビライザーが外れているだけだ。
フブキはロータスに両手をつきうなだれている。
「なんだこれー!」「やだー」歩道側にいた数人のギャラリーが騒ぎ始めた。
「ああっ」フブキは慌ててロータスの助手席側に回った。が、時既に遅し・・・
歩道には助手席から引きずり出されたダッチワイフがまぬけた顔をさらしてした。
「あ、ああ〜・・」フブキはその場に崩れた。
「サーキットの狼 助手席にダッチワイフを乗せてバシコーで自爆!」
「ぎゃははははは」「てっきりミキだと思ってた」「だまされたー」
とても事故現場とは思えない笑い声があちこちからきこえた。
プレッソの横では細身の眼鏡男が静かに現場をみつめていた。
「そーだプレッソのやつはどーした?」IPHがひょこっと頭を上げて辺りを見回した。
「あ、のり!」IPHはプレッソの横に立っていた男を見つけるとそう叫んだ。
男はIPHがそう叫んだのが聞こえなかったらしく、全く反応しなかった。が、偶然
通りがかった野良犬を見ると慌てて車の中に入りこみエンジンをかけた。
グワンというエクゾーストに犬は驚き、プレッソに向かって吠えはじめた。
「ばうばうばうばうばうばうばう!」プレッソはブロローーーンと回転を上げると4輪か
ら白煙をあげ全速でバシコーから走り去った。その加速はリッターバイクを思わせるほど
のダッシュであった。
「のりだよあれ」「のりぃ? あいつカルディアだろ」「望遠こるでぃあ」
「でも似てたなー」「それにしても速かったなー」「犬見て逃げるんだからのりだろー」
「のりあんなにうまくないはずだけどなー」「彼をサーキットの犬と呼ぼう」
「サーキットの犬・・」「まぬけな・・・」「犬っていうよりイヌって感じかぁ?」
「いやあイヌが正しいな」
「それにしてもあの車、変だぞ」「4WD 4WS アクティブサスのプレッソ???」
「うーん」「とりあえずのりんち行ってみよー」三人はバシコーをあとにした。
「のりのプレッソ の 巻」
三人はIPHのシャレード「そしある」に乗ると14号に出て新小岩へ向かった。
のりには週末になると小山から上京してくる習性がある。
はたしてのりの家の前にはプレッソが止まっていた。「あるある」「やっぱりのりだ」
「でも、このプレッソ、どノーマルだぜー」「げげ、まだ950kmしか走ってない」
IPHがクラクションを鳴らすと玄関の明かりがつき、のりが出てきた。
「するとなにかね」のりは出てくると意味不明の言葉をはいた。
「これはなにかね」じんじんがそれに呼応してプレッソのタイヤを蹴った。
「それはナニだね」会話になっていない。
「のり、いままで何処にいた?」IPHが意味のない会話に割って入った。
「いままでここにいたがねぇ・・・ ここにいたから玄関にでてこられたんだがねぇ・・
 あー、でもちょっとかんなななんかすいてたから走ってきたけど、なんで?」
突然普通の口調に戻ったのりはまだ玄関の扉に顔面をはさんだまましゃべっている。
「んー とりあえず茶」
IPHは寒いのでじたばたしていたが、茶と言うとシャレードにもどってしまった。
「あー、いくかね」とりあえず新小岩のジョナサンへ行く事になった。
「良くないパターンだなー」「このメンツで新小岩・・・」
「朝の渋滞始まる前に帰れるといいなー」「24時間じゃなくなったから平気だよ」
「いつまで学生やってるつもりだぁ」

「パンケーキとコーヒー」「ブラウニーとミルクティーのセット」「ゆず大福セット」
「スパケティーミートソース コカコーラセット」4人は散々メニューを見たあげく
かわりばえのしない物をオーダーした。
「で?」たかしが話をのりにふった。「で?なにかね?」「いつ買ったのエスプレッソ」
「コーヒーは買ってないがねぇ、こないだプレッソかったよ」
「今日、バシコー走ってただろ。」「ばしこー?」「船橋港」「それどこ?」
「・・・ やっぱのりじゃないんだよー」「でもイヌ見て逃げただろー」
「でもなー のりのプレッソは新車でノーマルだろー」「ねーねーねー4WS 4WD
アクティブサスのプレッソってあるか?」
のりはトホーもない事を言われてあんぐりと口をあけた。「そんなのないよ」
「今日バシコーにいた赤いプレッソは4WD4WSアクティブサスだったんだ」
「どぇーー?」のりはどうしても信じられないといった表情だ。「ほーんとだって」
「ぐぇーー?」のりは変な声を出すばかりであった。
 結局あのプレッソはのりではない事がわかった。4人は5時の閉店の時間になると
ジョナサンを出た。が、寒い寒いといいつつも6時近くになるまでのりのプレッソの周り
で立ち話をしていた。
 

「1000km点検 の 巻」
「お客さん丁度1000kmですねー」
のりは次の日プレッソを1000km点検に持ち込んだのだが、本当に1000kmにな
りそうなのでディーラーの周りを回ってぴったり1000kmで持ち込んだのだった。
のりは以外と呆気なく気づかれてしまって、ちょっとがっかりした。

 - つづく -


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