大ガードの夜景 第9話  『 疑? 』

ある日京子は体調を見計らって、杉並の成田西にある黄(ファン)助産院を訪ねた。
もともと京子は子供が出来ても仕事を続けるつもりでいた。となると日中は子供を保育園に
預ける事になるが、子供が熱出す度に会社休むわけにもいかないし、必ず定時で帰れる保証も
ない職場だったので、親には協力してもらえる様話をつけていた。
生れてからでは、引っ越しも大変なので生れる前に京子の実家の近くへ引っ越す予定だった。
それで杉並区内で助産院を探していたのだが、ここが自由な雰囲気で良さそうだと
まず訪問してみる事にしたのだった。
行ってみると本で見た以上にいい雰囲気でスタッフも優しいし、もう他をあたる必要もないな
と思える、そんないい助産院だった。びらんからの出血に対しても
ちゃんと病院にも通って経過見て、無理そうならちゃんと病院で産む様にと
アドバイスしてくれた。出産までの検診も、一人でじゃなくてダンナさんと来てもらう
というのが基本姿勢だった。
京子はあまりいろいろ捜し回る事もしたくなかったので、そこに通う事に決めた。
助産院を出ると阿佐ヶ谷までブラブラ散歩して、新小岩に帰りその足で産婦人科へ
検診に向かった。
「こないだの検査の結果なんだけどね」先生はなにやら紙をぺらりと出すと、そう
切り出した。前回、びらんについて念の為組織採取して細胞診にまわしていたのだった。
「がん検査のランクは、5段階あるんだけど、ながたにさんはね、その真ん中『疑陽性』。
つまりがんだって断定はできないけど、疑わしいっていう事。5段階の前二つは明らかに
がん、後二つは明らかにがんじゃない、で真ん中がなんとも言えないのね。
なんとも言えないからシロクロはっきりさせなきゃなんないわけなんだけど
それには組織を少し切り取らないと検査出来ないんだ。で、今の状態でそれをやるのは
出血が心配でね。これは出産して状態がおちついてから検査するのがいいんじゃないかと
思うよ。疑陽性で本当にがんだった例もそうそう無いから、心配しないで」
先生はそう説明すると京子を内診台へうながした。「うーん、ちょっとひどくなってるね。」
「処置も出来ないんだからそんな不安あおる様な事言うなよ〜。」京子は、この先生は
あまり好きになれなかったが、どうせ引っ越しするまでだと思って通っていた。
京子は徹夜明け+終電で帰宅したじんじんにその日の事を説明した。まあ検査できない
ならこれ以上心配してもどうにもなんないから、気にしない様にしようよと、そんな話
をしてその日は床に着いた。
しかし、気にしない予定だったのが、深夜、何か流れ出る感触で目が覚めた京子は
トイレで考え込んでしまった。鮮血とともに1センチくらいの血の塊が出て来ていた。
それでも続いてはいなさそうなので、そのままにしていたのだが、明くる日、大学の
友人と行った沖縄居酒屋のトイレで5センチ大の血の塊が落ち、京子はもう生きた心地が
しなかった。
翌日じんじんは疲労と泡盛効果で会社を休んでいたのだが、朝、またまた京子は出血。
トイレは血の海状態になっていた。京子はむりやりじんじんを起こして産婦人科に向かった。
「赤ちゃんは元気ですよ、単にたまっていた血液がまとまって出た塊でしょう」
先生は平然とそう言ったのだが、内診の途中で出血してしまい「わわわ」という
声をたてた。「だから、ひどい出血だったって言ってるじゃんさ、見てわかったかい」
京子はため息つきながら心でそう言った。
結局先生はもう町医者の手には負えないと思ったのか「これから電話しておくから
これを持ってすぐここへ行きなさい」と紹介状を京子に渡した。
紹介されたのは錦糸町の賛育会病院という所、京子はじんじんにタクシーを拾ってもらい
すぐにそこへ向かった。

-つづく-