大ガードの夜景 第7話  『 ビデオ撮り 』

京子はじんじんが出張に行ってしまうと、もう次の日にはケロりと笑顔に戻っていた。
少々つわりはあるものの、会社も休んでいるし、出血は止まっているし、今のうちに
いろいろしとこ、と家の片づけなんかをしていた。
すると平塚の大山君から「出張でこっちに来る」と連絡があった。
彼は京子とじんじんのの結婚式で司会をしてくれた、じんじんの中学からの友達だった。
いいやつなのだが、行動が極端な事が時々、種々の問題を引き起こしていた。
例えば、彼は暑がりで、夏場じんじんの家に来ると構わずすぐ下着姿になるのだ。
それだけ気心知れてて、自分の家の様に思ってくれているわけなのだが、問題は
京子しか家にいない時だ。誰も訪ねてこなければ良いが、見られたらかなり誤解を受ける事になる。
その日はちょっと蒸し暑かったし、京子はエアコンが嫌いだったのでつけてなかったし
このまま彼を家に入れたら絶対パンツ+ランニングに変身するに違いない。
そう思った京子は、近所の焼き肉屋で大山君と会う事にした。
「じゃ新小岩ついたら電話して」「了解しました」どうも彼は携帯電話を
同時通話型無線機としてしか認識していない様子で、すぐ無線口調になる。
夕方、大山君から電話がかかってきた。「あ、新小岩ついた?」と京子が聞くと
「今到着しました」という大山君の声が玄関の向こうから聞こえた様に思えた、次の瞬間
呼び鈴がなった。「これだ・・・」京子はガックリうなだれ電話を置くと玄関を開けた。
果たしてそこには直立不動の大山君がにこにこ顔で立っていた。
「はぁ・・・」京子は大きくため息をつくと、彼を玄関に入れた。
「だからさー駅前の焼き肉屋行くんだから、駅から電話すりゃいいのに」
京子は大山君を玄関で待たせたまま出かける準備をし、二人は焼き肉屋へ向かった。
その焼き肉屋は、新小岩に長年住むのりちゃんが「ものごころつく頃にはあった」という
なんのヘンテツも無い朝鮮焼き肉の店なのだが、時々カルビ半額セールをやっていて
そういう時だけたまに食べに行っていた。その日は丁度セール中だったのと、つわりが
無くて何でも食べられそうな気がしたので、食えるうちにと、行く事にしたのだった。
店に入ると二人は何かに憑かれた様にカルビをむさぼり食った。
大山君は仲間の中でも大食いで有名だった。普段はまあそれほどでも無い様に見えるが
周りにたきつけられたりして調子に乗ると、もうどうしようもないくらい食うのだった。
大学時代、じんじんとのりちゃんが彼がスパゲティ大好きだというので、どんだけ食えるか
やってみようと「とりあえず」500gパスタを茹でた。ゆで上がって鍋いっぱいになったパスタを見て
いくらなんでも茹で過ぎたか、と思ったのだが、彼はミートソース2缶を使い、わずか15分で
平らげてしまった。「まだまだ行ける」と思った彼は、後日自宅で800g食ったとも1000g食ったとも
言われそれは半ば伝説と化していた。
そんな彼は「半額なんですよね」の一言の後、ひたすら焼き肉を食い、一人前数百円の安いカルビを
中心に、いろいろ食いまくり、二人なのに、高い肉食べてないのに、会計は1万円を越えた。
「ワリカンなんて言わないよね」京子は言われる前にクギをさした。
「え、違うんですか?」彼はそうは言ったものの、二人分全額支払った。
で、何をビデオ撮りしたかって? (今回の題名)
次の日、医者へ検診に行った京子は超音波で見たわが子の様子をビデオに納めてもらったのだった。
なんかシロウト目には良くわからないと思ったが、説明されて良く見ると顔のパーツなんかが
判別出来るくらいになっていた。
京子は生れるまでわが子の性別を知りたくないと思っていて、医者にもわかっても言わないでと
伝えていたが、ここまで見えてしまうと、男の子だったら見たくなくてもおちんちんが
見えてしまうのではないかと心配になった。そんなこともあって結局画像のビデオ撮りはその一度
だけで終わってしまったのだった。

-つづく-