大ガードの夜景 第54話  『 北へ(4) 』

よんきちゆみこの結婚式はたくさんの仲間の協力ですばらしい式となった。
「手作り結婚式」というのも住んでいる地元でゆっくり時間をかけ準備すれば
それなりに誰にでも可能だが「東京からはるかに離れたこの北海道の地で」
というのは彼らならでは、なのだとじんじんは感じた。
まぁ彼らにとっての地元はここ北海道なのかもしれないが・・・
最初、現地を見た両親が、あまりに何も無い所で、ここで何をどうやったら
結婚式なる物が出来るのか、と当惑したという話も聞いたが
済んでみれば「形式」はあまり関係ないのだという事がわかってもらえた
のではないだろうか。夜の宴会から引き上げたじんじんはテントでそんな事を
考えていた。

22日の午後には釧路から船に乗るので、じんじん達は21日の夕方には開陽台のサイトから
撤収するはずだった。しかし、昼間みんなと和琴へ遊びに行き釧路川のカヌーごっこを
していたため、撤収は夜になってしまった。
こうなったらそのまま泊まって明るくなってから撤収してもいいように思えたが
サイトの一番奥から大量の荷物を駐車場へ運ぶには1時間くらいは必要で
それを早朝の血圧の低い時間にやるくらいなら今夜のうちに荷物を移動して
車で寝るのが正解だと、じんじんは判断した。
じんじんがテントをたたみ荷物を運び始めると、数人が「手伝うよ」と一緒に荷物を
運んでくれたので、2往復ほどで撤収出来てしまった。
車の前まで運んではみたものの、車でのキャンプはこれが初めてで、車中泊も
初めてなので、じんじんは荷物を車に入れて寝床を用意するのにかなり苦労した。
ある程度は外に出しておくしかなさそうだった。が、隣に車を停めていたまっちゃんが
見かねて「鍵渡すから車倉庫代わりに使っていいよ、スペア持ってるから出発する時は
鍵さしたままロックしといて」と言ってくれた。

朝は日の出前に目がさめた。じんじんと京子は小春を背負子に入れると展望台に上り
日の出を待った。この時期の日の出は国後から昇る。実質外国の領土となっている
土地から昇る日の出というのも、なかなか見られる物ではない。
その日は朝霧も無く地平線水平線まで晴れ渡っていて、すばらしい日の出が見られた。

予定より早起きしたので、じんじん達は養老牛のからまつの湯に行ってみる事にした。
そこは河原にある小さい無料の露天風呂なのだが、結構有名で、早朝狙いで行っても
だれかしら入っている温泉だった。当然混浴なので、特に女性はなかなか入れるチャンス
がないのだ。が、行ってみると誰もいない。チャンスとばかり京子は風呂に入った。
小春はまだ泉質が肌にどう影響するかわからないので足先だけちょろっと入れただけ
にしておいた。

じんじんは釧路川でカヌーごっこをした時にショボい瀬で沈してしまい、メガネを流して
しまったので、予備の度の弱いメガネで運転していた。
それでも、バンバン車を飛ばし多和平と磯分内の風牧場に寄ってヨーグルト買い
釧路の和商市場で念願のいくら丼を作製し結構ぎりぎりでフェリーターミナルについた。

東京に戻ればまた仕事、という事なら仕方ないが、ずっと休みなのだから、そのまま
テント旅で道内まわってくるとか、道内とは言わず日本縦断するとかしてもいいはずだったが
通院しなきゃ、と帰宅するあたり、やはり病んでいるのかもしれない。
「なんか帰るのもったいない」じんじんはフェリーに乗ってからそんなことを思った。

- つづく -