大ガードの夜景 第53話  『 北へ(3) 』

次の日から丘の上のテントはどんどん増えていった。もちろんシーズン中なので
ツーリング途中でここに張っていく連中も混ざっているが、ここまで混むのはお盆の
時期くらいかも、というほどだった。しかも披露宴会場として確保した場所に
風の強い開陽台ではめったに見ないでっかいタープを連ねていたので、ちょっと
不思議な感じだった。
夕方、町に出ていた料理長の「シェフ」が帰ってきた。
シェフはテントに戻ると「さっき風呂屋で知らない人に『シェフさんですか』とか
話しかけられたよ。別冊アウトライダーで顔覚えてたんだって」とニヤニヤと
笑いながら言った。
「なんかホテルの中華料理屋でコックやってるとか言ってたけど」
その話を横で聞いていたじんじんがピクっと反応した。それは行きのフェリーで会った
あの中華コックに違いなかった。
「げ、そいつ多分行きのフェリーで会ったよ。中標津にいるの?」じんじんは
横から会話に顔をつっこんだ。
「なんかね同じ宿の女の子が事故ってバイク壊しちゃったから中標津のライダーハウス
ベースにして2ケツでいろいろ回ってるんだってよ。ここにいる事は教えといたから
あとでここに来るんじゃない?」
北海道では行きのフェリーで見かけたヤツが帰りのフェリーにいたりとか
あっちのキャンプ場で会ったヤツと数日後に別のキャンプ場で会ったりとか
そういう事が良くあるので、それほど驚く事でもなかったのだが、本当ならもう
東京に戻るまで会わないであろうはずの人間とあっけなく再会する事になるというのは
いかにもココらしい、とじんじんは思った。

7/20ゆみこよんきち結婚式当日、じんじん達は朝食を済ませるとお祝いの花咲ガニを
買いに根室へ出かけることにした。往復200kmくらいだから午後の式には間に合うという
目論見だ。あまり寄り道はしていられないが、国道ばかり走っていくのもナンだしと
じんじんのステップワゴンは厚床で44号に出ると少し釧路方面に戻って海沿いの裏道へと
入った。釧路方面からこの道で初田牛、昆布森あたりを通って根室へ行くのがじんじんの
定番ルートだった。時間はかかるが適度に曲がりくねっていて時々シカやタンチョウも
見られる。なにより交通量が少ないのがうれしかった。この日も30kmほど走って
軽トラック1台追い越し、2台のバイクに抜かれ、3台の乗用車とすれ違っただけだった。
じんじん達は根室につくと駅前通りのスーパーの裏にある小泉商店でゆで花咲ガニを
買った。その店はじんじん達が以前バイクで来た時に屈斜路湖横のホクレンスタンドの人に
「あそこはカニ自体もいいけど茹で方もうまいからね。」と教えてもらった店で
毎年北海道でのルーティーンに組み入れて利用しているのだった。
しかしこの日は丁度脱皮前のカラの固い小さめのカニしかなかった。仕方なく買うだけ
買いはしたが、家に送る分は後日うまそうなのが入ったら送ってくれと伝票だけ作り
店を出た。
「さーさっさと帰らないとね〜」帰りは44号線で真っ直ぐ厚床へ出て243号線別海町
経由で開陽台へと戻った。開陽台についたのは14時近くで式には間に合ったものの
結構ぎりぎりだった。
じんじんは披露宴タープの所へ行くと中華コックに声をかけられた。
「やー、もう小杉のエルシィへ行くまで会う事は無いと思ってたんだけどね!」
じんじんはそう中華コックに挨拶すると、中華コックが「バカボン」というあだ名の
女の子を紹介してくれた。シェフがこないだ話していた事故ってしまった子らしい。
じんじんは丁度小春を抱いて降りてきた京子を交えてしばらく二人と話をすると
「もうすぐ式だから、ゆっくりしてってね」と言ってテントへと戻った。

- つづく -