大ガードの夜景 第51話  『 北へ(1) 』

じんじん達は休みに入ると、バイク友達のよんきちとゆみちゃんの結婚式へ行く
準備を始めた。結婚する二人からは「いつもの丘で結婚式をします」という
あいまいな内容のハガキがきていたが、その「いつもの丘」とかいう場所は北海道の
東の方、中標津という町にあった。もともとじんじん達は毎年この時期に北海道へ行って
いたので日程的には丁度良かった。そんな遠い所でやるとなると来られる友達も
来られないでしょう、というのは浅はかで、もう家庭を持って普段はツーリングにも
いけない身分の人間も、仕事が忙しくてなかなか休めない人間も「結婚式だから」と
もっともな理由をかざして「まったく困るよね、そんな遠くでさ」とまわりを黙らせ
堂々と北海道に出て来られるので出席率は高いらしい。もちろん自費だから金銭的に
どうにもならない人間もいるにはいるのだが・・・
じんじんは東京〜釧路のフェリーがJAF会員に安いチケットを出す期間に合わせて
船を予約し、同時にその船だけのためにJAFに入会した。フェリーではオートバイは
「手荷物」と同じ扱いなので長距離のフェリーでも数千円しかかからないのだが
車になると何万円という金額がかかるので割引を使わないテはなかった。
今回の北海道は、じんじん達にとっては車で自走する初の北海道であり、小春に
とっては初のキャンプ生活となる。
行きの船は偶然、よんきち達と一緒だった。更にバイク友達のきりんちゃんが
同じ船で行くらしい。有明の埠頭へ行くと見送りにバイク友達の伝ちゃんとアニキが
きていた。グダグタと駐車場でしゃべっていたが、あっというまに乗船時間となり
バイク組から船内へと消えて行った。船は日が変わる直前に岸壁を離れ31時間後に
霧に煙っているであろう釧路の港へ着く。その2泊の船旅は人によっては長く退屈な
時間でしかなく、人によってはひたすら寝られる時間であり、また人によっては地図を
眺めながらこれから走る北の大地に思いをはせる時間であり、感じ方は人それぞれ
であった。二等のベッドに荷物を置いたじんじん達は一通り船の中を散歩すると
すぐに寝てしまった。
昼間じんじん達は、よんきち達がロイヤルステートという最上級の船室をとっていた
のでそこへいりびたったり、ラウンジで昼寝したりと適当に過ごしていた。
京子が小春を抱いてラウンジにいると、愛想ふりまいてる小春に反応したバイク乗り風
のにいちゃんが話しかけてきた。京子が北海道の「ツーリングマップ」というバイク
用の地図を見ていたのもあったらしい。子連れなのにツーリングマップ、という図式が
ちょっと気になったのだろう。話を聞くとその兄ちゃんは京子の勤め先のすぐ近くに
ある「ホテル・ザ・エルシィ」という所の中華レストランでコックをしているという。
その中華屋は社内の宴会などでも使った事があったので京子は興奮ぎみにいろいろと
話をした。バイクを降りてしまうと、そんなフェリーの中でのちょっとした出会いが
なかなかないのでは、と思っていた京子にはうれしい出来事だった。京子は過去数回の
北海道ツーリングの話を延々と続けるのであった。それは話している方もそんなに
いろいろあったっけ、高々数回きただけなのに、という内容だった。
三日目の早朝、じんじん達はしっとりとひんやりとした釧路の港に降り立った。
車だと感じにくいと思っていたが、窓を全開にするとバイクに比べて薄着の分空気の
冷たさが身に沁みた。「ほいじゃ和商ね」よんきち、ゆみちゃん、きりんちゃんのバイクに
ついてじんじん達のSTEP WGNも一路市内の和商市場へと向かった。それは釧路航路で北海道に
上陸して早朝の町で朝食にありつきたい場合の定番ルーティーンであった。
船内でパンを頬張り港から寄り道せずに消えて行くライダーも多かった。じんじん達は
どちらかというとそのパターンで朝の市内は駆け抜けるだけだったのだが、今回は中標津に
定住する予定できているのでゆっくりと和商で飯でも食って行こうということにしたのだ。
久しぶりに来た釧路市内は以前と変わらず、安心感があった。京子は前回バイクで来た
時に、もうしばらくはここに来られないかもしれない、と思っていただけに
うれしさとなつかしさと、そして病院から生還したんだという気持ちでいっぱいに
なっていた。

- つづく -