大ガードの夜景 第46話  『 やいま(1) 』

京子は退院した直後のGWはヤイマ(八重山)へ行こうと思っていた。
前回オウムのサリン事件のあった年に安さに負けてツアーで小浜行き、リゾートホテルに
泊まって後悔したのでツアー使わずにフリーでヤイマを回ってみたかったのだ。
なにしろ通常なら石垣往復の飛行機だけで10万かかるのにツアーだとホテル3泊ついて
8万で済んでしまう。でも行ってみると小浜の景色にマッチしない閉鎖空間に作られた
リゾートに軟禁。出かけたければ事実上おしきせのオプショナルツアーしか手段が無い。
夕食は一番安くて4000円。当時の八重山なら2食付きで民宿に泊まれる金額である。
京子とじんじんは途中ホテルの部屋をそのままにして波照間の民宿へ一泊しに行って
きたのだった。
今回3人は竹富と波照間と与那国に絞って民宿を渡り歩く事にした。
じんじんは京子が退院してから連日終電で帰る状態であったのでGWの休暇なんて取れる
はずも無かったのだが、課長に話を通して強引に休みを取った。過去、仕事だから
という理由で大切な自分の予定をキャンセルして後悔した事は1度や2度ではなかった。
会社の仕事も自分がいなければスムーズにまわらない部分は確かにあるのはあるが
いなかったらその仕事が止まるか、といえば実はそうではない。特に大企業では。
そこを理解してうまくたちまわらなければ、休みなんて取れない会社でもあるのだった。
前日いつもは書類のファイルやパソコンをつめこんで40kgにもなるスーツケースに
大量の紙オムツとミルク、着替えを詰め込んだ。今まで出張以外で旅に出るのにスーツ
ケースなんて使わなかったのだが、今回は京子の体調もあるし荷物を一つにまとめて
最悪じんじん一人でも移動出来る形にしたかったのだった。
当日、羽田まで京子のオヤジさんに車で送ってもらい3人は石垣へと旅だった。
石垣空港から出ると気温は28℃、じんじんはまた「あ、沖縄って暑いんだった」と
ついてから思い出した。その日は夕方に竹富に渡ればいいだけだったので、タクシーの
運転手にどっかいいとこ無い?と相談してみた。するとカビラ湾で小さいグラスボート
あるから乗ってみたらいいさー、とほとんど強制的に連れて行かれてしまった。
カビラ湾の浜につくと美しい海、でも本当にGW?というほど閑散としている。
八重山で不思議なのは石垣行きの飛行機は大抵満席なのに現地ではほとんど観光客を
見ないという事だ。みんなリゾートとかいう閉鎖空間でひなたぼっこしたりしている
のであろうか・・。
グラスボートは当然貸し切りで釣り舟を改造した船であったがその分小回りが効いて
浅瀬にまで入れるし、オジサンがいろいろ機転効かせて見せてくれるので結構楽しめた。
タクシーに戻ると運転手はエアコンかけてシート倒して昼寝中だった。メータは
動きっぱなしだしいい仕事だ。私らは離島桟橋まで行ってもらい、あやぱにモール
(といっても単なる商店街)をウロウロ。そのあと船で竹富に渡った。石垣島なんて
思いっきり離島だと思うのだが、その周りにある島へ行く船のつく桟橋は離島桟橋。
竹富は離島から見ても離島なのだ。竹富は赤瓦の昔ながらの沖縄の家を残そうという
事で新築の家も昔ながらの外観で、観光牛車もあるし思いっきり観光地化している
印象なのだが、実際に行ってみるとそうでもない。とてものんびりしたヤイマらしい
島だ。ここでもなぜか観光客が牛車に乗ってわらわらいてもおかしくないのだが
それほどは見ない。いったいあの大量の牛車はどこを走っていや歩いているのか・・・
3人が泊まった民宿は中盛荘というおじいとおばあが二人でやっている宿。別に何か
前情報があったわけではなくて適当に選んだのだが、とてもヤイマらしい宿であった。
夕食には赤米飯、アーサ汁、ジーマミ豆腐、グルクンから揚げ、モズクといった定番から
ゴーヤやピィーヤシ(島胡椒)のテンプラ、昼顔チャンプルーといった物も出て来た上に
こぶし大の紅イモだんご・・そんなに大量の物、どう食えというのか(笑)
葉っぱのテンプラが出た時「これなんだろう」と京子が言った。じんじんは
「そのへんに生えてる雑草じゃないのか?うまいけど」と言いつつ
「これ何のテンプラですか?」とおばあに聞いてみた。
おばあは「ピィヤシさー」と窓の外に生えている草を指さした。
「やっぱり、そのへんに生えてた・・」
食事の間、おじいが小春を見ててくれた。おじいは小春の両足首を片手で持ち手の上に
立たせようとしているが、さすがにまだ6ヶ月ではうまく出来ない。
食事の後、小春が寝たので外に涼みに出た。すると縁側の前にある屑サンゴの山の
上に誰か寝ている。見ると上半身ハダカのおじいが大の字になって星を見ていた。
そこが涼しくていいのだそうだ。おじいは昼間牛車の運転手(?)をしているらしい。
しばらく話をするとおじいはサンシンを取り出し島歌を歌ってくれた。
ゆっくりとしたサンシンの音がヤイマの星空にとけていった。

- つづく -