大ガードの夜景 第41話  『 あきらめない 』

京子はその夜いろいろな思いが頭を駆けめぐりなかなか寝つけなかった。
小春が生まれてから3カ月ずっと病院にいて母親らしい事なんか全然出来てなくて
このまま母親を経験しないまま病院で死んで行くのか・・・
そして親より先に死んで行くのか、じんじんと二人で老衰で死のうといった約束ももう
守れないのか・・・
とにかくもう見える所にまで死が迫っている、という事は事実に思えても
そう思うという事は、自分が深層ではもうあきらめているのかもしれない、とも思った。
できていない事をあわてて追いかけるのは死が迫っている事を認めている様な気がした。
そして病気に対してあきらめるという事は、死を早める事になる様な気がした。

次の日、京子は一日中何かにつけて涙を流していた。ちょっとした思考のスキマを
突いて悲しみが襲って来た。ベッドの中でも、廊下歩いていても、お風呂でも
トイレでも・・・とにかく泣いてばかりだった。
夕方、ドコモへ出張に出ていたじんじんが会社へは戻らず直接病院にやってきた。
ずいぶん前に会社の「働く女性のネットワーク」にいる人が送ってくれた本の中から
何冊かを持って来てくれていた。
じんじんによると、それらの本には癌とは共存出来る、ということや
自己免疫力を高める事と癌の関係などが書かれているという事だった。

京子は気を紛らわせたい一心ですぐにそれらの本を読み始めた。
すると、メインの病巣は取ってしまったんだから、残った癌を広げないでいられれば
命を失わないで済むのではないか、という気がして来た。
そんな事が簡単に出来れば世話無いという事も同時に思ったが
「病気は気から」という事もあるし、同じダメなら前向きに楽しく生きたいと
京子は得意の楽観性を発揮させ、涙涙のどん底からはい上がる事に成功した。
遺書じゃないけれど、残しておきたい意志をまとめて書いておこう、と思っていた自分が
恥ずかしく思えた。

来週からは効くか効かないか、やんないよりはマシ(かも)の放射線が始まる。
それが終わればこのつまんない病院ともおさらばだ、どうせここにいても
もう何もする事はないのだ。京子はさっさと終わらせてさっさと家に帰りたかった。

-つづく-