大ガードの夜景 第34話  『 最後の夜? 』

1月31日、京子は午前中に実家へ行った。手術を前にした最後の帰宅だった。
しかし、久しぶりに小春に会ったのに母親から
「抱きぐせがすごいから、あんたもそんなに抱かないでよ」と言われ
しょげていた。自分の都合で親に預かっていてもらっている手前強く反論もできない。
親も若くはないのだし、あまり手間をかけさせる事は避けたかった。
それでも「抱きぐせ」なんていうのは大人の都合で出来た言葉だと京子は思っていたので
だっこしてあげられない、というのはつらかった。
だっこする事すら他人から許可されないと出来ないのか、まるで自分の子供じゃない
みたい・・・京子は手術前という事もあって夜にふさぎこんでしまった。
でも気分を落ち着かせようと自ら行きつけの整体の先生に電話し
しばらく話相手をしてもらった。
「なくなった分、何か別のものが入ってくるよって・・」
先生から言われた深い言葉に京子は元気づけられた様だった。

元気になった京子は年賀状のお年玉くじの番号チェックをはじめた。
しばらくして「うおおお」という声。「すげー3等があった、さかねちゃんのやつ!!」
3等はふるさとこづつみだ。今まで切手しか当たった事が無いので、アタリを探す
というより切手が何シートもらえるか、という事を考えながらチェックしていたので
喜びはひとしおだった。

2月1日、親子3人でのんびり過ごす。昨日の3等は「七輪」をもらうことにした。
昔からキャンプで使いたかったのだが、さすがに小さいヤツでも現在のキャンプ道具に
プラスしてバイクで運ぶのには無理があった。でもこれからは基本的にキャンプは車に
なるだろうからコレにしよう、という事になった。

夜、小春が寝ついたのは26時を回ってからだった。やっとベッドに入った京子と
じんじんは別になんという事は無く黙っていた。じんじんはブラックジャックが
女医の如月先生の子宮摘出手術をする話をぼんやり思い出していた。
その話ではまだ駆け出しのブラックジャックが他の先生の協力無しに一人で執刀し
手術直前、麻酔をする時に「君が女であるうちに言っておこう」と愛を告白する
のだった。
京子も明後日には、子宮も卵巣も無い体になるのだが、じんじんはそれが特別
「女でなくなる」というふうには思えなかった。性別が変わるわけではないし。
じんじんの母親も子宮筋腫で20年も前に卵巣も含めて取ってしまっていたので
違和感が少なかったのかもしれない。
じんじんには女性のシンボルをなくす、という事そのものより、その事で京子が
どう変わるのかという事が心配だった。
じんじんの母親の手術はじんじんが小学生の頃の出来事で
その手術で親が女としてどう変わったのか、は良くわかっていなかったのだが
なんとなく手術を境に今のあの「じんじんが嫌う」母親になった様に感じていた。
その手術を受けたからといって同じになるという事はないのだが
やはり女性にとって重大な体の異変が突然起きるわけで影響は大きく出るはずではあった。
「手術してもさ、京子は京子だし、別にかわんないんだし、ずっと好きだから
心配するなよ・・・」じんじんは突然何の前ぶれもなくぽつりと言った。
京子は隣で無言で頷いた様子だった。
また沈黙がしばらく続いたが、こんどは京子が一言ぽつりと言った。
「しようよ・・」
次の瞬間、京子はじんじんの腕の中にいた。

-つづく-