大ガードの夜景 第31話  『 年の瀬2 』

クリスマスイブ、京子は胃痛に悩まされていた。
忘年会の「食い」か、夜更かしが原因か、とも思ったが実際の所はどうなのか
わからなかった。結局家で食べた夕食も戻してしまい、病院に戻ると絶食で点滴
という事になってしまった。
翌日、じんじんは例によってIDO向けの製品の事やらなんやらで那須の工場へ
都内の印刷屋へと走り回りつつも、小春への初めてのクリスマスプレゼントや
京子へのクリスマスプレゼントやらを買って夜には病院に現れた。
小春には木のガラガラ。京子には大きな地球儀を持ってきた。じんじんがしょっちゅう
海外に出張していた頃から、こういう時に地球儀があると良くわかるのに、と
京子の欲しい物の一つだったのだった。
結局クリスマスは平日だし病院で過ごす事になったが、いつになくビッグなプレゼント
がもらえた京子は上機嫌だった。

96年も残す所わずかとなった29日、今からで間に合うんかい、といいながら
じんじんが年賀状の原案をプリントゴッコの用紙に書いて持ってきた。
来年は牛年。良く肉屋さんにある牛の絵。ここはサーロインとか、ここはヒレとか
線で分割されているアレだ。トリ年の時もこのパターンだったが、まあ今回は何かと
忙しかったし仕方ないかなという事で京子はその図柄で承認する事にした。
同じ病室のメンバーは昨日今日でみんな自宅へ戻ってしまい、その日はもう
3人しか残っていなかった。が、隣でカーテンを閉めていた牛島さんは、かなり容体が
悪いらしく家には戻れず個室の病室へと引っ越ししてしまった。
それだけならともかく、次の日、その個室へ今までに無い人数の見舞い客が次々と
やってきた。京子のベッドからはその病室の出入り口が見えるので、その人数からして
ただごとではないと嫌な予感がした。それでもその日は騒がしかった、というだけで
別に何事も無く終わった。

大晦日の早朝、京子は廊下が騒がしいので目が覚めた。同室の佐藤さんも目が覚めた
らしく、京子に話しかけてきた。「牛島さん、どうかしたのかしら・・・」
しばらく二人はベッドから外の様子を見ていたが、しばらくしてストレッチャーに乗った
牛島さんが姿を現した。
「!」
二人は息を飲んだ。
牛島さんの姿は、頭からシーツで覆われていたのだった。
ストレッチャーの後ろからは小さい子供を連れた旦那さんが重苦しい顔で現れた。
旦那さんは廊下をはさんで、つい2日前に妻がいた病室から見ている二人に軽く会釈を
すると、ストレッチャーとともにエレベータの方へと消えて行った。
「そんな・・」「大晦日なのに、明日お正月なのに・・」
二人はかつての同室の友であり、同じ子宮がんであった牛島さんの死は、そのまま
自分たちの未来と重なり、とても他人事には思えなかった。
「子供、まだ2歳じゃ、わかんないよね・・」「まだ34なのに・・」

京子はいろいろな事を考えながら、その日、正月の間病院に残る小春を沐浴させたり
していた。「この子のためにも、ああなるわけにはいかない・・」
そう思うと、悲しみの涙もピタリと止まった。

「そうそう、泣いてるヒマはないのよ。」
という牛島さんの声が聞こえた様な気がした。

- つづく -