大ガードの夜景 第29話  『 遺伝子操作? 』

楽しかった第一回帰宅後、京子はまた何をするでもない病院の日々に戻った。
同室の癌仲間とベットごしに話をしたり、ダラダラとしていれば良いのだった。
隣のベッドにいる牛島さんが先週から体調崩して、あまりカーテンを開けなくなって
しまったのが気にはなっていた。夜には泣く声も聞こえていた。癌が腸なんかに転移
してしまっている、という話は聞いていたのだが、具体的にどういう状態なのか
また、どこまで彼女が医者から病状を聞かされているのかわからないし、癌患者としては
京子のが「後輩」であり、どう声をかけて良いかわからないでいた。
京子の日課はほとんど小春の世話、新生児室での授乳で占められていた。
ポケベルのタイマー機能を駆使して「婦長」に文句いわれない様、時間を守っていた。
新生児室での授乳は、未熟児室が個室みたいな環境なのに対して、他の「健康な」母子
達と一緒だったので、京子は時々複雑な心境になる事もあった。なにしろほとんどの
母親はあの「直母」をしているし、当然の様に1週間くらいでいなくなってしまう。
京子と小春は産婦人科のヌシと化していた。なにしろ小春は同室のほとんどの連中より
小さかったが、少なくとも4倍は人生歩んでいるのである。(!?)ミルクだって調子いいと
100ccくらいはイッキ飲みなのだ。20ccやそこら飲むのに苦労しているワカゾーとは
格が違うという感じだった。看護婦達も小春の世話だけは長いので、一週間くらいで
いなくなってしまう他の赤ちゃんに比べて、いろいろ反応もわかるらしく
特別思い入れがある様子だった。もちろん扱いに差をつける様な事は無いが。
特にノーテンキなニコニコ看護婦のAさん(仮名)は、京子が小春を抱いていると
「あ、るんるん〜、るんるん、るんるん、こはるんるん」とか言ってスキップしながら
迫ってくるのだそうだ。
そんなある日、小児科の近藤先生が京子の所にやってきた。「小春ちゃん心音の方は
まあ心配ないんですがね・・」なにやらもう一件の「未熟児貧血」の方はちょっと
治療が必要なのだそうだ。といっても、今は薬でどうにかできるらしい。
昔は輸血が必要だったとの事で科学の進歩に感謝、の京子だった。
その薬は今はやりの遺伝子組み換え技術のおかげで開発できたのだそうだ。
京子は電話で実家の母親にそれを伝えたのだが、じんじんが京子実家へ行くと
お母さんは深刻なおもむきで「小春だいじょぶかねぇ」と心配していた。
「まあ薬でどうにかなるらしいですし、そんなに心配ないですよ」
じんじんはそう言った。
「でも貧血治すのに小春の遺伝子組み換えるって・・・」
「へ?」じんじんは動きが止まった。「ち、違います、おかーさん・・・」
じんじんが説明すると、突然お母さんは元気になった。京子の家ではアリガチな勘違い
だったのだが、今回はちょっと笑うに笑えなかった。が、やっぱ笑った。
いくらなんでも本人の遺伝子組み換えちゃヤバいって!

-つづく-