大ガードの夜景 第27話  『 1クール目 』

いよいよ第一回目の抗ガン剤投薬の日が来た。ちょっと変わった方法で点滴するので
いろいろ大変なのだ。大変なのは技師の先生の方なんだけど。
簡単に説明すると、太股の付け根から先端がクニクニ動くカッコイイカテーテル
を動脈につっこんで動脈内をたどって行って子宮の方へ行く分岐へさきっぽを突っ込み
子宮方面だけに薬を投入する、というものだ。こうする事で病巣を抗ガン剤で集中攻撃
できて、体の他の部分にはほとんど影響を与えないで済む。もちろん使える部所は
限られるので、あまり聞かない方法なのだと思うけど。
とはいうもののやはり抗ガン剤投与、さすがの京子もその方法にわくわくしながらも
内心不安でいっぱいだった。同室の加藤さんなんかは、静脈注射で髪の毛抜けてしまい
バンダナしてるし・・・ が、実際始まってみると、カテーテルの操作なんかを観察
したり、いろいろ面白くて緊張するどころの騒ぎではなかった。担当してくれた技師の
先生も京子の興味に答えていろいろ教えてくれたので、トータル3時間半の時間もあっと
いうまに終わってしまった。
当日、じんじんは会社を休んで病院に来ていたのだが、終わって出てきた京子を見て
会社行ってれば良かったと思ってしまった。これが抗ガン剤を投与されたばかりの
癌患者か!?というほど目を輝かせて、これこれこーゆーふーにやったんだと説明していた。
処置後は動脈に穴開けている関係もあって、しばらく寝返りも禁止の安静を続け
なければならないというので、京子はじんじんにサーマレストというキャンプで使う
エアーマットを持ってきてもらっていた。最初ベッドに戻る時、ベッドの上にある
緑色の怪しいマットに看護婦が怪訝な顔をしたのは言うまでもない。
投与した薬をさっさと排出するために利尿剤を点滴。ベッドの脇にぶるさがっている
袋はどんどんおしっこでいっぱいになっていった。心配された「はきけ」なども無く
最初の不安はなんだったんだ、というほど何もない抗ガン剤投与であった。
こんなにスンナリ(特に精神的に)済んだのはじんじんが病室で待っててくれる
という安心感が大元にあったからだという事に京子が気づいたのは
その日の深夜になってからだった。
翌朝9時に安静が解かれると京子は病院の朝食をとらずに、昨日の帰り際にじんじんが
病院の前のドトールで買っておいてくれたミラノサンド"B"を窓ガラス冷蔵庫から
取り出すとむさぼる様に食べた。とにかくおいしくて、そして、幸せだった。

-つづく-