大ガードの夜景 第25話  『 治療方針 』

京子とじんじんが医者から言われた今後の治療方針は、概略以下の様なものだった。
癌自体は外にまで広がっている様には見えない。子宮頸癌の病期としてはIb期。
なるべく早く手術する事が望ましいが子宮と周りの組織がある程度通常の状態に戻らないと
手術は難しい。それまで放置しておく事も出来ないので、まずは動脈注射による抗ガン剤で
主病巣を小さくする。これは周辺に目視で分からない転移があった場合にも効果が期待出来る。
それを2〜3クール行い、その後手術を行う。内容としては広汎子宮全摘術+場合によっては
リンパ節廓清を行う。その後は様子次第だけど放射線治療を追加するかもしれない。
という事だった。Ib期であれば、普通の癌、いわゆる扁平上皮癌であればまず心配は無い
けれど腺癌の場合は最低この内容をやっても万全とは言えないとの事だった。
癌は一般に「悪性腫瘍」と言われているが、その中にも「悪性」と「良性」があるのだ。
最近は医学も発達して癌になっても助かる例は多い、というのはこの「良性」の場合の
話なのである。先生は助かる見込みについて「半々」と言葉を濁した。
抗ガン剤については、一般に知られているのは静脈注射で、これだと全身に薬が回るから
いろいろ副作用も大変で、髪の毛が抜けてしまったりするのだけど、動脈注射では病巣付近
に集中して薬を送り込めるので、そういう副作用は無いらしい。ただ、入った薬は腎臓で
処理されて排出されるので、腎機能低下はあるかもしれないとの事。でもそれもそのために
具体的なケアが必要なほど低下するというわけではなくて、わかりやすく言えば腎臓だけ
10歳年取ってしまう様な感じなのだそうだ。
初め、病気の事を友達に知らせた時、やはりみんな気になるらしくネットで検索したり
して「子宮頸癌」の治療法をメールで教えてくれていたりした。「軽ければ一部を切るだけ
でも済むみたい」とか「I期ならまず平気だよ」とか、京子が安心出来る様にとコメント
してくれていたのだが「腺癌」の一言で御破算、という事になってしまった。
「円錐切除で子宮取らなくていいのは0期でがんが上皮内にある時くらいですよ」
初期なら子宮取らなくても、の問いに先生は「これだからシロートは困る」といった
顔で答えた。卵巣についても、今転移は目視では認められないから残すという事は
出来なくはない。でも残して転移があった場合、今回みたいに出血とか分かりやすい
症状が出ないから発見が遅れて危険なので残す事は勧められない。との事であった。
京子とじんじんは、そこで「はいそーしましょ」とは言わずに、他の医者の意見も
聞いてみようと、癌の本から何軒か病院をピックアップして電話で問い合わせてみた。
どの病院もちゃんと本に載っていた先生がわざわざ時間を作って対応してくれたのだが
やはり「腺癌」の一言を聞くと厚生年金病院の方針に従うのが良いという答えしか
返ってこないのであった。
幸い京子には小春がいたので、3人兄弟の夢はなくなるけど、それはあきらめるしかない。
京子は自分にそういい聞かせ、治療に望む決心を固めたのだった。

-つづく-