大ガードの夜景 第24話  『 立ち読み 』

小春は出産前日の検診で推定2200gという事であったが実際は2094gで、しばらくすると
どんどん乾いて、あっというまに2000gを割った。が、しっかりミルクも飲むし元気だった。
3日目には鼻チューブも取れて、やっと病人ぽさがなくなった。
京子の方も順調に回復し母乳も出る様になってきた。直に与えても小春は飲む力がないので
搾乳して哺乳瓶で与えていた。
小春は一度に25cc位しかミルクを飲まなかったので母乳で十分まかなえた。
じんじんは入院が長期に及ぶと見て、ポケベルを買ってきた。京子も携帯は持っていたが
病室からは使えない。京子からの連絡は公衆電話から出来るとして、じんじんから連絡する時は
いちいちナースステーションで呼び出してもらわなければならないし、ナースステーションの
電話も占有は出来なくて長くなる場合は公衆電話からかけなおす必要があった。
そんなある日、京子が会社で入っている「働く女性のネットワーク」の人で乳ガン経験のある
人から京子へ電話がきた。京子は小春が生まれてすぐ、そこの会議室に自分の病気の事などを
書き込んでいたので、それを見て電話してきたらしい。
「近藤先生にすぐ電話しなさいよ」その人はいきなりそんな事を京子に言った。
「は? 誰だよそれ・・・」京子は一方的にしゃべる相手に心でそう思った。
話が進むうちにその近藤先生というのはどうやら「がんとたたかうな」を書いた医者らしい
とわかったが、電話の相手は自分の経験から「こうするべき」みたいなものをグイグイと京子に
押しつけてくるので京子も疲れてしまった。もちろん心配してくれていて自分の経験を役立てたい
という気持ちはわかるのだが、乳ガンと子宮頸ガンではぜんぜん違うし
第一ガンなんてひとくくりで話をしようという事自体間違っているのだ。
それでも、話の全体から、一つの病院の診断だけで「その方法しかない」と治療の方針決定
してしまう事は良くないとか、あらためて病気について考えるキッカケを与えてくれたのは
確かだった。彼女が本を送ってくれるというので、京子はお礼を言って電話を切った。
「子宮ガンには抗ガン剤きかないから、やるなって彼女は言うんだけど・・・」
京子は出生届けを出してきたというじんじんからの電話のついでに、その人から言われた事を
相談した。じんじんはそんな事言われても、その彼女が診察したわけでもないし
いちいち気にするな。と言いつつも本当の所はどうなのか、主治医の言う事をどこまで
信用していいのか不安ではあった。なにしろ主治医にしても「症例が少なくて・・・」
という自信なさげな態度なのだ。じんじんはとりあえず京子の病気について少しでも
調べてみようとお茶の水で医学書を立ち読みした。しかし、書店で売られている
医学生向けの本なんかで分かる事はたかがしれていた。それに書かれている事は
一般論的な事ばかりで、同じ子宮頸ガンにしても、出来る部位や程度等で処置は違ってくるし
子宮頸ガンというひとくくりでしか書かれていない物では役にたたなかった。
病気そのものについては、やはり医者に聞いて、病気そのものの事ではなくて
ガンという病気に対してどう立ち向かって行くかなどについて書かれた本を見て
いろいろ勉強した方がいい、じんじんはそう思った。

-つづく-