大ガードの夜景 第23話  『 命名 』

はるちゃんが生まれた日、午後にじんじんの親も病院に姿を現した。
じんじんの親が京子を見舞ってはるちゃんを見た後、久しぶりに会ったんだし、と
飯田橋の駅ビルへ皆で食事をしに出た。
空は雲一つ無い快晴。風もなく穏やかな日がさしていた。
親(もう今日から爺婆さんな訳だが)は食事が終わるとそのまま家に帰って行ったが
じんじんは病院へ戻り京子のベッドの横で一人子供の名前を考えていた。
持って来ていたワープロ漢字辞典(文字コードを調べる本)の漢字を端から眺めていった。
漠然と「女の子なら『×子』がいい」と思っていたので、その×の部分に来る漢字を
何にしようかと、眺めていたのだが、特にコレと言うものは見つからなかった。ただ狙いとしては
「和子」と書いてヤスコと読むといういう様な、ちょっと変わったやつにしようとは考えていた。
しかし、字画などは一切考慮せず、見栄えと音の良さ優先で決めようとは思っていた。その点は
京子も同じ意見であった。
「あ、起きた?」京子が目を開けたので、じんじんは本を閉じた。「名前、何にしよう」
二人はそのままあーでもないこーでもないと考えたのだが、なかなか決め手になる様な名前は
うかんでこないものだ。「はるちゃんだから、やっぱ春をつけようか」「うーん、そーねー」
「春、春・・春子じゃつまんないよなー」「うーん」また行き詰まってしまった。
「小さく生まれてきたから小春とかね、単純すぎ?」じんじんがそう言うと京子は
「それいいかもしんない」と賛成した。「小春、小春・・小春日和とか言うけど、小春って
なんか意味あるのかね・・・家帰って辞書で見てみるよ。で、良さそうだったらそれに
しよか」こうして意外とあっけなく有力候補の名前が決まった。じんじんが調べてみると
小春というのは旧暦の10月の事で、まさに今の時期の事だった。「これはもう決定だ〜」
辞書を見たじんじんはあまりにぴったりな内容に喜んだ。「今日は小春日和だったしな・・・」
なんか銀座あたりのバーのママにいそうな名前ではあったが、あまり奇抜でも無く、日本的で
かつ、あまり見かけない名前でありながら一度聞いたら忘れ無さそうな、そんな名前に思えた。
じんじんは個人的にひらがなの「る」が好きで、その文字が入っているのも気に入ってしまった。
「天気予報なんかで、明日は小春日和でしょう、なんてのが聞かれる様になると、誕生日が近い
って、他の人にも気づいてもらえるって、なんか季節感あってうらやましいな・・・」
次の日、病院で京子にその事を説明すると、京子も気に入った様子で「親には文句言わせない」
と、もう小春に決定という事になった。これでまたはるちゃんをはるちゃんと呼べるというのも
京子にはうれしい事だった。

-つづく-