大ガードの夜景 第19話  『 パンチ 』

豊島産婦人科での検査結果が出る前の日になって、京子は結果を聞きに行くのが怖いと
言い出した。また「3」の疑陽性が出るのが怖いのだった。もしかしたら「4」なんて事も
あるかもしれないと思うと、とても一人では行けないというので、じんじんは明日会社を
休む事にした。
当日二人は豊島産婦人科を訪ねたが、平日の昼間ということもあって待合室はガラガラ
であった。先生は診察室にはいなくて、受付から呼ばれると、例によってジーパンにポロ
シャツという出で立ちで、白衣に袖を通しながら廊下に現れた。「入って〜」という先生
の言葉に促されて二人は診察室に入った。
「結果は3bです」bがつくという事は4に近いという意味だ。「先日見た感じと、この結果
だと、まあ確かに出血は怖いけれど、パンチ(組織を切り取る検査)した方がいいね。
私の教え子に専門家がいるから、そこでパンチして検査しましょう。」豊島先生は紹介状を
手渡すと、飯田橋にある厚生年金病院の場所を説明した。「じゃ、ちょっと予定聞いてみる
から」と先生は電話を取り、先方にパンチの予約を入れてくれた。「明後日12日の午前中
早めにそこの産婦人科へ行って、紹介状渡せば、金子っていう先生が担当してくれるはず
だから。」先生はそう告げると一通りの検診を始めた。整体が効いたのか、逆子体操が
効いたのか逆子が治っていた。
賛育会の斉藤先生は、がんになっている事はまず無いから、出血の危険を冒してまで
パンチしなくてもいい、という意見であったが、豊島先生は、検査で出血はしたとしても
対処出来る、それよりがんなのかどうかハッキリさせるべき、という意見なのだった。
豊島先生はいわゆる町医者で、斉藤先生は産婦人科専門の大病院の医者であったが京子には
豊島先生の意見の方が正しい様に思えた。斉藤先生と話をしていた時は、検査で出血する事は
絶対に避けなければいけない事の様に言われていた(気がした)が、改めて「処置は可能」
と言われると「あたりまえだよな」とも思った。斉藤先生が診察した時と、豊島先生が
診察した時では時間的に差があるので、今斉藤先生が診察していたら同じ判断を下していた
かもしれないし、以前豊島先生が診察していても、斉藤先生と同じ判断を下していたかも
しれない。それはもう今考えても無意味な事であって、今回医者を変えた事で新たな展開に
なったという事を良かったと受け止めるしか無いのであった。
単に大きな病院に行けば良いという事ではなくて、いかに良い先生に出会えるかが大切
なのだということが良く分かった。
12日のパンチ当日は多少の不安はあったものの、整体院に行った時に院長のカウンセリング
を受けたり、厚生年金病院の金子先生とも電話で話をして不安な点を質問したりした事も
あって京子一人で出かける事が出来た。そしてパンチでは幸い大きな出血も無く、しばらく
ベッドで横になっただけで夕方には自宅に帰る事ができたのだった。
「なんだ平気じゃん、だったらさっさと検査すれば良かった」
京子は拍子抜けした感じがしてしまった。

-つづく-