大ガードの夜景 第12話  『 隅田川 』

入院後3日で京子の点滴は中止になった。検査の後も出血は無かった。
京子は点滴の針が抜かれると、入院する前から行くつもりだった「カンカラサンシン工作教室」
に「半日外出で行けるかも」と密かに思った。それは空き缶で沖縄の「三線」を作るという
葛飾区の催し物。大したものではないが、京子は気になって参加申し込みをしていたのだった。

「外出? それはちょっとね〜」回診の時、斉藤先生はあっさりと外出禁止を言い渡した。
やはり初日の登場からしてハデだったのもあって、いくら今止まっているからと言っても
出歩くのは好ましくないらしい。「タクシーで行って座ってるだけだから、いいと思う
のにー」京子はそう思ったが、おとなしくあきらめる事にした。安静にということで
入院以来1週間風呂にも入ってなかった。病室はエアコンが効いているので特に汗で
ベタベタにはならないのだが、アタマはいいかげん痒くなってきた。「あのーシャンプー
だけでもしてもらえませんか」京子は看護婦さんに頼んでみたら「いいですよー」と
あっさりOKしてくれ、自分でするのかと思ったらていねいに洗ってくれた。

じんじんは昨日の朝、京子が寝ている時にいくつか荷物を届けて、その足で九州へ出張に
出かけていた。手がけていた製品の第一陣が納期ギリギリの綱渡り状態なので工場に直接
出向いてフォローしているのだった。スムーズに行けば今日の夜にも帰ってくるかも
しれないが、さすがに隅田川花火には間に合わないとの事だった。

夕方になって、大学の同期の仲間がお見舞いに訪れた。京子とじんじんは大学の
クラスメートなので、みんな共通の友達だった。しばらく話していたら、ドン、ドンと
花火の音が聞こえはじめた。
京子達は屋上に上がり、そこから小さく見える隅田川花火を見物した。入院してから
ずっとおとなしくしていたので、京子は屋上に出たのも初めてで、外の風に当たったのも
1週間ぶりの事だった。
「来年はあかちゃんと、じんじんと3人でこの花火が見られるのだろうか・・・」
そんな事をぼんやり考えながら京子はしばらく花火を見ていた。
「今年は音だけね」お腹の赤ちゃんにはそう話しかけた。
丁度その頃、じんじんは羽田に降りる飛行機の窓から、隅田川上に上がるチマチマとした
花火を眺めていた。

-つづく-