「とほほな夜」の巻 あの夜以来、IPHと星君は毎週末、八潮のガレージでGTRの改造に燃えていた。 エンジンを全バラし、パーツ一つ一つを磨き、アタリを見て組んで行く 気の遠くなる様な作業だった。 「湾岸MIDNIGHTにも書いてあったけど、ホントじみな作業だよな・・・」 IPHはバルブをしこしこ磨きながらつぶやいた。 パーツ代もボーナスが出る時期をミチコだまして使い込んだがそれでも足りず じんじんの残業の多さをバカにしていたにも関わらず、パーツ代のために 残業すらする様になった。 そして約半年後、一通り組上がったGTRに、星君がホームページの 更新を止めてまで手がけた自信作「でるだろXP-Pro」をインストールした。 以前のでるかもシリーズではニッサン純正のECUに星君のROMを挿すだけだったが 今回はAT互換のアーキテクチャを導入、完全レガシーフリーの星オートPCを GTRに搭載したのだった。 でるだろXPは名前からしてOSっぽいが、実は単なるWindowsアプリケーションだ。 CDRを読ませると「でるだろXP」のインストールは無事完了。 次にテスト用のEFIマッピングデータを読み込ませようとした所でトラブルが発生した。 データは昔のdosアプリで作るためPC9801U2で作ったのだが フロッピードライブがさび付いているのかディスクを読んでくれないのだ。 「おかしーなー」 星君が98からフロッピーを取り出してディスクのシャッターを開けてみると 磁性体の黒い板に鉄錆色のスジが同心円状についているではないか。 「ヘッドがさびてるんだ・・・」 今まではHDDで立ち上げて、直結してあるファミコンROMライターでROMを焼いていたので なんら問題無かったのだが、これは大きな誤算だった。 仕方なく232CでつなごうとしたらGTR側にはUSBしかなかった。 「移せないじゃん!何がレガシーフリーだよ不便なだけじゃん!!」 「ほよー、そんなことないよ、ネット経由で渡しちゃえばいいし」 しかしそこからが長かった。 以前その98は事務所にあって、ホームページにデータをUPする時は隣のWindowsマシンに 232Cでデータを渡していたのだが、レイアウト変更の時に 「どうせUPしてもIPHは落とせないんだし」と98U2をスタンドアロンのROM焼きマシーン としてガレージに持ってきてしまったのだった。 まず作業は98側で使える232Cモデムをガラクタ箱から掘り出す事から始まり 次に事務所から電話線を継ぎ足しながら98の所までもってきてつないだ。 98側にはCCT98しか通信ソフトが無いのでniftyのバイナリーメールをB-PLUSで 送るのだが、送り方を忘れてしまっていてあれこれ試して思い出すのに小一時間かかった。 GTR側にはカードH"がささっているのだが、あいにくガレージが圏外。 仕方なく事務所のルーターからツイストペアをつなぎ合わせて引っ張ってきたのだが その中の一本がクロスケーブルで、その事に気づくのに30分以上かかった。 そしてやっとネットにつながった、という所で 「てゆーか、事務所のパソコンで落としてフロッピーに入れて来ればいいんじゃない?」 というIPHの言葉で星君のトホホ許容値がオーバーし星君はたおれこんでしまった。 「ほよ〜〜〜先に言ってよ〜」 結局、事務所のパソコン立ち上げるよりこのままダウンロードした方が早いということで 無事データをGTR側のPCに渡す事が出来た。 「さーて、始動するぞー」 IPHが運転席に移動しようとすると星君が「でるだろXP」のツールバーにある鍵マークを クリックしてエンジンをかけてしまった。 「あー、てめー最初くらいアナログに行こうと思ったのにーー」 「ほよ、そうなの? こっちのがラクでいいじゃん」 星君はせっかくつけた始動ボタンを使ってみたくて仕方なかっただけだった。 エンジンがあったまった所でIPHは運転席のドアに手をかけたまま足をつっこみ 軽くからぶかししてみた。 ボゥン・・ 「ひゅ〜たまんねーいい音!!」 IPHは今までガマンしていたROM以外のチューンを一気にやったうれしさで じたばたしている。 「ナラシはシャダイじゃなくて実走でいこうよ」 IPHはいてもたってもいられない、という感じでGTRをガレージから出した。 深夜の八潮にハイチューンGTRの低いエグゾーストが響いた。 星君のシミュレーションツール「パワーでてるよ for XP」によると IPHのGTRは550ps程度、トップエンドで実速330km/hは出る見込みだ。 ただ上の伸びがイマイチなので300→330にはかなりの時間を要すると考えられた。 八潮から首都高に乗ったGTRはまず5000rpmをリミットに走る事にした。 それでもギアレシオ変更しているので5速でなら160くらいのスピードになる。 じんじんのブラックバードと同じ様なものだった。 「ほほー、ナラシ領域でばんばんパス出来るじゃん、すげー」 IPHは高めのギアでらくらく追い越しが出来るGTRの変貌ぶりに驚いていた。 「今日は飛ばせないからC1流してみるか〜」 IPHは6号から中央環状には入らず箱崎へ向かった。 日中は両国の7号合流で混んでいる隅田川の上もがらがらだった。 「ちとコーヒーでも買ってくか」 IPHは駒形のパーキングにGTRを止めると自販機で缶コーヒーを買ってきた。 「ここのPAも狭いよなー、PAっていうより広い路肩みたいなモンだよな」 IPHと星君がGTRのわきでコーヒーを飲んでいると駒形ランプから 一台のプリウスがPAに入ってきた。 - つづく -