「プロローグ」
 高校生は車に乗れない。年齢的にも金銭的にもかなり無理がある。
彼らはバイクに乗っていた。
そして彼らにとっても深夜の湾岸地域は恰好の遊び場であった。
 彼らは若いが故に危険を省みずに走ってしまう。彼らの視界には標識や路面表示など入
ってこない。しかも彼らの乗る「レーサーレプリカ」の性能は彼らの能力の数段上にあり
ほとんど「気違いに刃物」といっても良い位の状態であった。
 そんな彼らが市街地で生き延びていられるのは、ここ13号地でストレスを開放してい
るからに他ならなかった。ここが無ければ彼らは市街地でレーサーと化してしまうであろ
う。事実ここの様な条件のコースを持たない連中は、一般車の多い峠道などで事故を多発
させていた。ここではころんでもガケから落ちたり、対向車に踏みつぶされたりする事は
無い。
 そして今夜も、市街地でくすぶっていたエンジンが生き返り、チャンバーに溜まったオ
イルを一気に吐きだす。
 そして今夜も・・・

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「13号埋め立て地の巻」

 「”コース”に入らない様に気をつけないと・・・」
IPHははださんからまた”情報”を仕入れてきた。今度は13号地らしい。
三つ目通りをひたすら南下する。「ほんとにいるのかぁー?」13号地が近づきつつある
のに、それらしきモノが全然いないので、じんじんは疑いの目でIPHを見た。
「ホントだって、はださんコース入っちゃって、えらいめにあったっていってた」
信号待ちをしていると2台のバイクがシャレードの横にならんだ。
「ほらほら、いるっているって。」見るとヘルメットの後ろからキツネの尻尾をたらした
ヤツと、シールドにステッカー張りすぎて前が見えなさそうなやつがそれぞれCBRとF
ZRに乗っていた。
「なになに、NSR?VFR?」IPHは車に関しては詳しいのに、ことバイクとコンピ
ュータの話になるといきなりマヌケになるのであった。「こっちがCBRで、こっちはF
ZRだ!」信号が青になると二台は実力の7割位で加速していった。
「はえーーー」IPHはアクセルベタぶみしながらわめいた。「この車が遅いんだろ」
2台のバイクはあっというまに点になり見えなくなってしまった。
そのすぐ後、NSRが2台とVFRが1台シャレードを抜いていった。「ほらほらほらほ
らほらほら・・・」IPHがワクワクするのでシャレードは小刻みにゆれる。
 357を右折して船の科学館の手前を左に入った。
「この先が既にコースの一部らしいからなー」IPHは道の一番右をゆっくり進んだ。
と、いきなり左の路地から数台のバイクがダンゴになって飛びだしてきた。
「あそこだ、あそこ」IPHはハザードを点けていったん停止した。
「ころあい見計らって一気に通過するからなー」
確かに不用意につっこむとバイクがぶつかってきそうだった。その左側の路地からは次々
とバイクが出てきてなかなか切れない。本来なら一時停止してこの道に出るところを
ハングオンで飛びだしてくるのだ。
「よし!」IPHはアクセルを踏み込んだ。
「走れ!加速しろー」シャレードが遅いのでIPHはハンドルをガクガクゆすっている。
シャレードが通過する前にまた路地から一団のバイクが現れてきた。
「ひえええええ」結局巻き添えを食らいそうになりながらシャレードはそこを通過した。
「びっくりしたなー」 「なにが”頃合い”だ!」
「こいつが遅いんだからしかたないだろ」
バイクがこの道を通過するのはわずかの距離で、すぐまた左の路地へ入ってしまう。
「はださん、あそこに入ったらしーんだ」IPHはその路地を指さした。
バイクが入っていく路地は車だと1台分くらいしか無い細い道で、正に”コース”そのも
のだった。
IPHは少し先の橋の手前にシャレードを止めた。外に出てみるとまるでレースでも見に
きたかと思うほどワンワンとバイクの音が鳴り響いている。
橋の袂から下のコースへ下りてみると橋の下は道になっていて2,30台のバイクがいる
ではないか。       
「ここは”ピット”かぁ?」二人はたむろっている高校生とバイクを眺めながらウロウロ
した。コースは一周30秒ほどで、多少のアップダウンがあり、ちょっと面白そうだ。
モンキー、ジョグからNSR、TZR、VFR、CBRありとあらゆるバイクが走ってい
る・・様に見えるが、実は全部中型までだ。しかもレプリカばかり。所詮、高校生の集団
であった。
コーナーの所で見ていたが、ラインどりもめちゃくちゃだし速いやつは殆どいなかった。
「あ、青くて黄色い!」IPHはゴールドバルブのバイクがいるのを見つけ、喜んだ。
「バイク用もあるのかー」「H4が標準のバイク多いよ」「そーなん?」   
IPHはバイクの事を知らないのだった。
 まだそのころ青くて黄色い「ゴールドバルブ」はあまり普及していなかった。が、密か
なブームとなっており、憧れる者は多かった。IPHもその一人であったのだ。ゴールド
バルブは当時H4タイプしか無かったため、付けられない車種も多かった。そのため、普
通のバルブの根元を青いガラス、先端を黄色いガラスで覆ったまがいものが、出回ってい
た。13号地に集まる人間は一般的に金がないのか、頭が悪いのか、その多くがまがいも
ののバルブを装着していた。IPHはバイクの事を知らないので、バイクのヘッドライト
は特殊で同じバルブが付く車種など存在しない位に思っていた。「ほぉーー」また一つ利
口になった。IPHはこの音とともにデータを「揮発するかもメモリ」に書き込む。
 二人はどのバイクが正しいバルブでどれは正しくないかとか、どのバイクのラインどり
がどーのとか、しばらくの間ギャラリーにまぎれて見物していた。
 

「フナムシ現象 の 巻」
しばらく見物していたら、何台かがバックストレートを逆行してきた。
一方通行ではないので別に構わないのだが。「おいおい、ぶつかるぞ」
と、反対側を見たが回ってくるバイクがいない。
ピットにいた連中もワサワサとしはじめた。「パーカーか?」
「戻るか?」二人はピットの方に向かって戻りはじめた。
そのあとわずか30秒ほどで、そのへんにいた連中は殆ど完璧にいなくなってしまった。
残ってウロウロしているのは車できたギャラリーだけだ。
「クモの子散らしたようにってのはこの事だな」IPHはたまに知っている慣用句が見つ
かったのでうれしそうだ。
「なんかコスギのオバチャンみたいだな」
「あ?」じんじんが変な事を言うのでIPHはなんじゃそりゃといった顔をした。
「コスギのパートのオバチャンってさ定時の2,3分前になると席についたままそっと帰
り支度してて、チャイムと同時にガサガサ席たってさ、チャイムが鳴り終わるころには誰
もいないだろ。」
「そーそーそーそー」
「で、チャイムが鳴った時っておれとか鈴木さんとかは、この箱で終わりにしよっ、とか
言って作業してるわけ、で、はい終わりとか言って前を見るとだーーーーーーーーれも居
ないんだぜ。まるで”フナムシ”みたいだろ。ここのヤツらも同じか?」
 二人が誰もいなくなったピットの辺りにくると赤灯をつけたパーカーがコースを回って
いった。「単に蹴散らしただけか」
「それにしても、あんだけいたバイクどこいったんだろ」
二人はシャレードに戻ると埋め立て地の奥の方へ行ってみた。が、特にバイクがいるとい
う事もなかった。引き返してきて357を左折、東京港トンネルの手前まで来ると突き当
たりに2,3台バイクがいた。
「左に行くと船の科学館なんだよな」たまには見てみるかといった感じで左折すると・・
・ いるいる、科学館横の道をコースにしてビャービャー走っているではないか!
「なんだ、こんなとこに移動してたのか」
なにしろそこはさっきのコースから1,2分の所なのだ。「まったくしょーがねーなー」
「でもさーここからどうやって帰る??」「あぁ?Uターンすれば・・・」
IPHは視線を動かしながら安易に発言した事を後悔した。
「Uターンする?ぜってーするなぁ?」じんじんはIPHの肩をゆすった。
二人がUターンに使わなければならない部分は”コース”の”ヘアピン”になっていた。
二人が”ヘアピン”の部分を見ると一台のバイクがコケてガガーーーッと滑っていった。
「・・・」前を見るとそこは”コース”の”ストレート”であり中型がムリヤリなライン
でビャンビャン原付を追い越している。当然、車線はあって無きがごとしだ。「・・・」
IPHは状況の入力処理の後、数秒のEXEC−TIMEをおいて的確な解答を音声出力
装置から吐きだした。
「直進!直進! ハイビームにして行けば大した事はないって、いけるいける」
IPHはライトを上向きにするとゆっくりコースに入って行った。
 

「イタチごっこ の 巻」
じんじんはバックすれば良いという事に気づいていたが、直進の方がはるかに楽しそうで
あったので何も言わなかった。 
IPHは道の左側ギリギリの所を歩く様なスピードで進んだ。
フォーーーーン GPZが「じゃまだよてめー」といった視線を送りつつシャレードの横
50cmの所を通過した。
前では原付を追い越そうとしたバイクが、こちらの車線に飛びだしては元に戻るといった
事を繰り返している。「やっぱ、やつら頭わりーな」
パァアアアン!Dioとシャレードの間をNSRが100km位で通過していった。
「ひいいい」「じわじわ進まないでさっさと抜けた方がいいんじゃないかぁ」「いや」
怖いが、ゆっくり行った方が安全そうだった。
つぎつぎと通過するバイクに脅えながらシャレードはようやくコースをぬけた。
IPHは左に曲がると全速力で逃げた。「助かったーーでも、ちっと見て行くか」
IPHはせっかく発見したのだから見て行こうと車を左によせて止まった。
車を降りてコースの方へ向かって歩きはじめると、コースを走っていたバイクが次々とこ
ちらへやってくる。「なんだなんだ?」
1台や2台ではない、殆ど暴走族の如き台数だ。あっけにとられているうちにその軍団は
通過し、出遅れたバイクが2台3台と通過する位になった。
「すげーなーパーカーでもきたのかなー」
 そのとおりだった。ファーゴーファーゴーとサイレンを鳴らした物体がバイクを追いか
けてきた。「おらー、そこのバイクーとまれー!!」相手が高校生なのでかなり言葉が乱
暴だ。バシコーの時は「・・・しなさーい」だった。
バイクとパーカーは二人の前を80kmくらいのスピードで駆け抜けていった。
「やってるやってる」「まーつかまえる気はないんだろなぁー」
捕まえようとしても、その先にはバイクしか通れないスキマがあってバイクは皆そこから
逃げてしまうのであった。「ほー、あれじゃ追えないわ」
 パーカーは道に沿って左の方へ行ってしまった。「なんだ、チェイスしないのかー」
で、そのスキマに目を戻すとそのスキマの向こうは ”ピット” になっているではない
か。「なるほどー、あそこでつながってたんだー」また一つ利口になったIPHが感心し
ている。
二人は歩いてピットまで行ってみた。「このスキマじゃーシャレードでも通れないなー」
IPHはシャレードならどこでも通れると思っている。
 ピットには数台のバイクがいたが、ガランとした感じであった。
「つまんねーのー、みんな帰っちったのかなー」「まだ、別のコースがあったりしてね」
「かなー」しばし、二人はピットに立ってぼうっとしていた。
すると、みるみるうちにバイクが帰ってきて、5分もたたないうちに最初の状態と変わら
なくなった。
 「しょーもねー」「こりないなー」
「こっちで蹴散らされるとあっち、あっちで蹴散らされるとこっち。」
「りょーほーで同時にやんないのかなー」
「かなー、なんかパーカーもすぐいなくなっちゃうしなー」
「でも同時にやられたら何処行くんだろー」「さー」
「聞いてみればぁ?」「えーー」「その旗いくらしました?って」「それはタテシナ!」
二人はあきれてしまい、腹も減ったので今日は引き上げることにした。
「ワイいくかーワイ」「だな」シャレードは菊川の吉野家へ向かった。
 
 

「金曜日の13号地 の 巻」
金曜日の深夜、人けのない13号地のコースにインラインフォーの排気音が響いていた。
走っている数台のCB750Fはチーム「ガンボーイ」の連中。 
山梨生まれの巨摩グン、九州男児の球磨グン、愛知県代表の海部(あま)グン
そしてリーダーの中頚城(なかくびき)グンは新潟県人だ。
それにまざってCB750K0に乗る竹内光の姿もあった。光は0歳2カ月ながらCBを
のりこなし、その5kg以下という体重のおかげでパワーウエイトレシオは抜群である。
光はいつもの様に空いているコースで走るつもりが、突然レベルの高い4台のCBに囲ま
れ少々とまどっていた。「ばぶぶ・・・」
 ガンボーイは最近この13号地に現れ、ヘタな高校生を相手に勝負をしかけガードレー
ル送りにしたり、お台場の方でウロウロしている連中をカツアゲしたりしている。
金曜日の夜にガンボーイが現れたのはこれが初めてであった。しかし、金曜日の夜は明日
授業があるため、走っている高校生は殆どいない。その誤算がガンボーイの連中をイラ立
たせているらしかった。

 「あの人達ですね」
ピットには2台のバイクがいた。一人はバリマらしいがもう一人は違うようだ。
 「あの赤ちゃんは違うんですか? そーですねー赤ちゃんにカツアゲされたりはしませ
んねー はははは」
なにやらバリマがそのもう一人の男にガンボーイの事を説明している様子であった。
 「わかりました。ちょっとこらしめてあげましょう。ビームを向けて5kW位浴びせて
やりますか?」バリマは相手の冗談がよく理解できなかったようだが、とにかくお願いし
ますと頭をさげた。
 男はヘルメットを被ると習志野ナンバーのV−MAXをウイリーさせながらコースイン
していった。

 「いるかなー」「金曜の晩だぜーいるって!」
「だってやつら明日学校あるんじゃねーのかー」
IPHタカシじんじんの三人は菊川のジョナサンでお茶していたのだが、突然13号地に
来てしまった。3人の行動パターンなどその程度のものであった。
「いいかー、あの路地から先がコースだからなー」IPHはハザードを点滅させ車線の一
番右によった。
「いなさそーだぞー」タカシは話に聞いていたほどバイクがいないので疑っている。
「あれーいないのかなー」IPHはハザードを消すと普通に走りはじめた。
「でも音は聞こえるよなー、また別の所で走ってるんじゃないのか?」
じんじんが窓を開けて首を出すと無灯火のガンボーイ4台が路地からハングオンで現れ、
シャレードをかすめていった。「ひいいい、ほらいるじゃーん」IPHは慌ててアクセル
を踏みなおした。
「今のライト点けてなかったなー、おっかねーなー」3人はシャレードから降りると橋の
上からコースを見た。
「ぜんぜんいねー」
IPHは自分から行こうと言いだしたくせに勝手に不満そうな顔をしている。
「やっぱり明日学校あるから、いないんだよー」
「そっかぁ・・・」じんじんの言葉にIPHはうなだれた。
「何台かいるから一応下行ってみよー」じんじんが土手を下りはじめたので二人もくっつ
いてきた。
 
 

「バリマ少年の正体 の 巻」
 「おおっ!いまのCB750じゃなかったか?」「しかもK0」「だれだよ中型しかい
ねーとか言ってたのはよー」前回と違うコースの様子にIPHは戸惑うばかりだった。
 K0通過のあとしばらくおいて4台のCB750F、その後ろはV−MAXであった。
「げげげ、V−MAXで13号地走るかぁあ?」タカシがあきれている。
「あれは日傘さんなんです。」
突然暗闇から声がしたので3人はびっくりして2,3歩逃げた。するとそこにはツナギを
着たバリマなモノが立っていた。
「な、なんだこいつ」
「あれは日傘さんなんですよ」バリマ少年は繰り返した。
「日笠なら知ってるけどなー」タカシはぶつぶつ言ったがバリマ少年はそれを無視して続
けた。
「ぼくのたった一人の・・・ いや3人いるうちの一人の友達がガンボーイの連中にカツ
アゲされたんです。そいつローン払えなくなっちゃって・・・ で、無線の先輩に相談し
たら日傘さんを紹介してくれたんです。BMJラバトリイとかいう会社のエンヂニヤらし
いです。」バリマ少年は勝手に話しかけてきた割にはボソボソと元気の無いやつだった。
「なんだなんだ??? なんか面白い事言ってるなこいつ。」
「無線の先輩ぃ?」
「ラバトリイってトイレの事だぞ、わかってんのかなーラボラトリ」
「エンジニ屋って何売ってるのか知ってるかぁ?」
「おさむちゃんの弟子だったりしてね」
「新聞少年カッ」
バリマ少年は次から次へとわけの分からない事を言われてポケーとしてしまった。
のかと思っていたが、そうでも無いらしい。少年は気を取り戻すとこう言った。
「930にいた方ですか?私、塩尻の新聞少年です。京子ちゃんは?元気ですか?」
「ひえええ」「しんぶん〜」「だれだよおめー」
IPHだけは新聞少年を知らなかった。
「ナゾの新聞少年」は数年前、まだこの世にパケットがはびこっていなかったころ
9.30で無変調をかけてきたのだった・・・
 
 

「新聞少年930に現る の 巻」
「だれー? 怒ってないからお友達になろー」
 「さびしいんだろー、声だしなよー」
じんじんとタカシは無変調が切れた所でそう言った。
「へへへ」
無変調のヌシはついに声をだした。
「へへじゃないよ、コールあるのかぁ?」
「ないよ」
「従事者免許ってのがいるんだぞ、まず」
「それはあるよ」
「コール待ちか」
「申請してない」
「無線機何使ってんの?」
「TR8400」
「げげ、やけに古いな」
「先輩にもらったんです。」
「で?家はどこなの」
「台東区竜泉ってところです。実家は塩尻ですけど・・・」
「山川くんちのそばじゃん、国際通りの方?」
「そうです。国際通りに面しているんですぐ分かりますよ」
「よーし覚えとけよ明日攻撃しに行くからな!」
・・・・
「うそだようそ」
「学生?」
「専門学校です。新聞配達しながら通ってます。」
「今時えらいなー、新聞少年なのかー」
「新聞配達しながら通うってことは朝6時ころから学校行ってるのか?」
「ちがいますよー」
「じょうだんだよじょうだん」
「鈴木さんいじめちゃだめだよー」
「ははは、で、地方から出てきて友達ほしさに無線はじめたのかぁ?」
「アドレス帳2,3人しか書いてなかったりしてね」
「・・・ 実はそうなんです。でも何で分かるんですか?3人しか書いてないってこと」
そして新聞少年はちょくちょく930に出てきて話す様になった。
ほとんど毎晩、無線機をつけているらしく誰もいないと
「新聞少年だよー」とか一人で喋っている事もあった。
その後みんなパケットに移ってしまい、新聞少年は930に置き去りとなったのだった。
新聞少年のその後の消息は定かではなかったが、じんじんがのりの家に行った時にのりあ
にの部屋の無線機から「新聞少年だよー、きょーこちゃーん」という声が聞こえていた事
があった。みんながパケットに移って1年以上もたっていたころである。
 のりあには当時OKLと930で喋っていたのだが、話によると時々出てきては
「きょーこちゃーん、新聞少年だよー」とそればかり繰り返していたという・・・
その新聞少年がなぜBMJと13号地に・・・
そして無線の先輩とは・・・
待て次号!

「ガンボーイ殲滅の巻」
コースインしていったV−MAXは2,3周でガンボーイのCBに追いついた。
「それではまず愛知県海部郡から・・・」BMJは背中に背負っていたアンテナの
エレメントを取り出すとコーナリング中にCBの後輪へねじこんだ。
グギャ!というエレメントの折れる音と同時に海部グンのCBはスリップダウン。
火花を散らしながら消えて行った。
「おおーっ一台コケたぞ」IPHがめざとくそれを見つけて駆け寄った。
海部グンは何がおきたのか全く分からないといった顔で路面に座っていた。
「座ってるからだいじょぶみたいだな」
「あーあーハンドル曲がっちゃって・・・」
「おいだいじょうぶか?」
じんじんが声をかけると海部グンは座ったままメットを脱ぎ2,3回うなずいた。

「次は新潟県中頸城郡ですね」
BMJはまた背中からエレメントを一本取り出した。
ガンボーイの連中はツナギの背中に自分の名前を入れているのでBMJにも
それが誰なのかすぐに分かった。
バギャ!
中頸城グンは海部グン同様にアスファルトにたたきつけられた。
「最後は巨摩郡・・・山梨にそんな郡ありましたかな。どっかのマンガの
主人公と同じ名前ですね。」BMJは巨摩グンの背後でバリバリ伝説のグンが
ガードレールを蹴ってムリヤリコーナーを曲がるシーンを思い出していた。
「ガードレールを蹴ってもらいましょうか」
BMJは大声で巨摩グンにガートレールキックコーナリングをしろとしつこく
言った。巨摩グンももちろんバリバリ伝説のガードレールキックは知っていて
「なんなんだこいつは」と思っていた。
と、不意にインにきりこんだBMJがわざとアウト側の巨摩グンを押し出す様に
アウトにはらんできた。いつもガンボーイが高校生相手にやっている事だった。
巨摩グンはガードレールキックの事を考えている時にそれをやられたので
頭が混乱し、本当にガードレールを思い切り蹴ってしまった。
ゴン。
そんな事でバイクが向きを変えるのだったら世話なかった。
ガシャーー
巨摩グンはイン側に倒れガードレールの下につっこんでいった。

3台のCBを倒したBMJはピットに戻ってくると新聞少年の他にじんじんやタカシが
いるのに気づいた。「おーみんなこんなとこで何やってんだ」
「BMJこそそのバイクで13号地走りにきてんの?」
「いや、今日初めてだよ、その小僧に仕返しをたのまれてね」
「日傘さんありがとうございます」
「だから日笠だっていってんのに」
「やつらが戻ってくるとやっかいだから、ここは引き上げましょう」

5人はお台場海浜公園に場所を移して話を続けた。

「新聞少年帰るの巻」
真っ暗なお台場には13号地に走りに来たヤツとか、人気の無い場所を求めて来た
カップルとか、わずかな人間しかいなかった。5人は突き当たりに車を止めると
砂浜に下りた。

新聞少年は無線の先輩がBMJを紹介してくれた様な事を言っていたのだが
BMJの話を聞くと、930で一人しゃべっている新聞少年に哀れみを感じて
話し相手になってやったところ、ガンボーイの一件を持ちかけられたらしい。
無線の先輩とやらがBMJを930に連れて来たと新聞少年が勝手に思い込んで
いただけだった。
「そうだったんですか・・・でも結果としてガンボーイのやつらを倒してもらった
ので本当に良かったです。これで思い残すことなく東京をあとにする事ができます。」
「え、東京をあとにするって、どっか引っ越すのか?」
「はい、塩尻の実家に戻る事にしたんです」
「東京は人はいっぱいいるけど友達はなかなか出来ないからか?」
「はい〜・・・」
新聞少年は少し淋しそうだった。


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