大ガードの夜景 第67話  『 再入院 』

翌日京子は、往診に来てくれた先生の紹介で新宿の東京医大病院へ行った。
行ったといっても父親の運転する車で母親に付き添ってもらって、だ。

診察の結果、肺は約半分が水浸し。
そのため血中酸素濃度も通常の半分以下という状態だった。どうりでつらいはずだ。
即入院で水抜き、ということになったが東京医大にはベッドの空きが無く
阿佐ヶ谷の清川病院へ入ることになった。
一通り手続きしたあと、京子は救急車で清川病院へ移動。
鼻にパイプで酸素送ってもらいながら救急車で病院間搬送なんて
「重病人ぽいな」と京子は思った。が、ぽいのではなく重病人なのだ。

移動先の清川病院でも空いているのは一番高いバストイレ付き個室で一日15000円
というお値段だった。
一番高い個室といっても、これがもしビジネスホテルだとしたら
「出せて7000円という感じの広さ」であった。
それでも「寝てれば2万円」の保険もあるのでそのままそこに入る事にした。
そのための保険なのだし。

京子は早速、肺の水抜きをした。
肋骨の下のあたりにプスっと針をさして、ちょろちょろと抜く。
逆点滴といった感じだ。ちょろちょろと水を抜いていくと
息を吸う度につぶれていた肺胞が「ずごごご」と膨らむ様な感触がした。
「一度に全部抜くと良くないので、半分くらい抜きます」ということだったが
1リットルほど取られた。まだまだあるらしい。
鼻からは酸素を入れてもらっているので、肺活量が復活はしていなくても
身体が随分ラクになった気がした。

会社にいるじんじんには京子母から連絡が入った。
東京医大の医者の話では「あと一月もつかどうか」ということだと
京子母はぼそぼそ言った。

じんじんは仕事切り上げて帰る事にし、課長にその事を伝えた。
「一カ月ぅ?」
課長は眉間にシワをよせ、ムチャクチャ不機嫌な時と同じ顔をしてそう言った。
じんじんは、その課長の下に来た時と比べたら、最近は、あまりに働きが悪くて
課のお荷物化していたので「その上それかよ!」と言われている様に感じた。
でも、課長は別にそういう意味でそんな顔をしたのでは無かった。
課長は唐突に理解不能な事を言われると、そういう表情になってしまうだけ
なのだった。
じんじんはフレックス退社し、京子の入院した清川病院へ行った。

「どう、水抜いたらラク?」
病室について、じんじんはベッド上の京子に聞いたが、聞くまでも無く
明らかに元気だった。とても一カ月後に死ぬ様には見えない。
京子母はまだ本人に「一カ月」の話をしていないと言ってたので
じんじんは「あと一カ月の命だって東京医大の先生が言ってたらしいよ」と
京子に伝えた。
「一カ月かー・・」京子は予想していたより短いな、という顔をしたが
さして驚きもしない様子。さらに
「でも一カ月とか言われると、実験レポートの締め切り前追い込みみたいで
気合入るな!」とか言う。

「やはり一カ月というのは見積もりミスかも」
じんじんはそう思った。

- つづく -