大ガードの夜景 第56話  『 隅田川再び 』

次の日もまた、京子はじんじんと新宿の大ガードをくぐり城東地区へと向かった。
今日は隅田川花火の日だ。
隅田川周辺は通行規制はされるし、歩いて行ったところで橋の上で立ち止まって
花火を見る事は禁止されている。まぁ禁止されていなくても立ち止まって見る事は
困難であろうほどの人でうめつくされる。
そんな中、小松川のS先輩が会社の屋上で花火を見るから来れば?と誘ってくれた。
じんじんは進入規制している地元のオッサンに「そこのI社へ」と行き先を告げて
京葉道路から裏路地へと入った。
京子とじんじんは小春を背負子に入れS先輩と共にI社の屋上へと上った。が、屋上に
出ても花火は見えず、みんなエレベータの機械室の上へハシゴをつたって上がり
花火見物をしていた。
もともと15年も地上20mに住んでいたじんじんは別に怖くも無かったが、もともと
高所恐怖症の京子は下を見ない事だけを考えて機械室の上に上った。
そこからは他のビルに隠されながらも隅田川花火が見えていた。
一年前に流血騒ぎで入院した錦糸町の病院で見た花火よりは大きく見えていた。
あの時はまだ「流産しかかっている」という診断だったのもあってわが子の命の
心配をしながら眺めていたのだが、こうして無事生まれて来て一緒に花火が見られた。
来年は3人で、という思いがこうして現実の物になったのはとても感慨深いものが
あった。しかし、今度は自分の命の心配をしなくてはならない状態になっているとは
あの時は想像出来なかった。

その週末頃から京子は胃痛に悩まされ始めた。初めは胃に転移か!?とも思い
思うだけで胃が痛くなるという悪循環だった。痛くなくても気持ち悪い感じが
抜けず食欲もなかった。
それに重なる様にして少しだが「出血」もあり、京子は小春と飯田橋の厚生年金
病院へ行き見てもらったが、胃痛は胃炎で、出血の方も少量で心配はないとのこと。
念のため血液検査もしてもらって帰宅した。

じんじんが会社の病院へ行くというので、京子は小春を連れて車に同乗した。
会社の同僚に小春を会わせたかったのだった。じんじんが病院で診察待ちをしている
間に京子は電話で同期の友達数人を建物の下へ呼び出した。
みんな京子にそっくりだと言い順繰りに小春を抱いて奇声を上げた。
「みてみて、歯が出始めたの」
京子は小春の口を開けさせ歯茎を指さした。そこにはほとんど点の様だが確かに
前歯が姿を現していた。「へーもう生えるんだ、早いんだね」独身の友達は
興味深げに小春の歯茎を見ていた。

じんじんが診察から戻ったのでみんなとはお別れし、家へと戻ることにしたのだが
じんじんは「へっへーまた休み一カ月延長〜」とルンルンで車を走らせている。
「こいつホントに鬱病なんか!?」京子は眉にツバをべとべとにぬりつけたくなった。

- つづく -