大ガードの夜景 第4話  『 仕事が原因? 』

会社を休む様になると京子の出血は大分おさまってきた。
会社の先輩に話を聞いても、みな切流による出血は経験していて
「そうそう、会社休むとおさまるよ」と口を揃えて言う。
「ま、年次はまだ38日もあるし、積み立て休暇もあるし、産前まで間に合うさ」
京子は今の仕事が好きなわけではなかったし、ましてやわが子の命がかかっていると
いうことで遠慮なく会社を休んでいた。

「ながたにサン、これスケジュール・・・」久しぶりに会社に出た京子はリーダーから
今度のプロジェクトのスケジュールを渡された。
今度の仕事は納期から考えると自分の妊娠期間と目一杯重なっているはずだった。
所が渡された紙を見ると本来なら自分が担当するべき仕事の所には後輩の名前が書かれており
どこをどう見ても自分の出る幕はなさそうだ。
「課長とも相談したんだけど、ながたにサン子供の事もあるしムリさせられないから
今回は彼と交代してサポートにまわって欲しいんだよね」
リーダーはいつものビクビクした口調でそんな事を言った様に聞こえた。というのも
声が小さい上に不明瞭で何を言っているのか良くわからないのだ。
リーダーは京子に何を言われるかと、構えている様子だったが、京子がにこやかに
スケジュールを受け取ったのを見て拍子抜けしてしまった様だ。

「らっき〜」
本来なら妊婦だと思ってバカにするなとくってかかってもいいくらいのところなのだが
京子はノラリクラリ課長と頼り無いリーダーの愚にもつかない指示に、ホトホト嫌気が
さしていたので、メインから外された事がとってもうれしかったのだ。
「せっかく大企業にいるんだから、たまにはぶるさがり社員やっておいしい思いしなきゃ」
そう、メインの業務から外されても別に給料が下がる訳ではない。減るのは残業代だけ。
もともと残業なんかしたかないとこだったから、渡りに舟とはこのことか・・・
仕事は適度にやって、やっかいな仕事は他に回して、さっさと帰ってさっさと寝る。
これが一般に言われる「ぶるさがり健康法」というヤツだ。

京子は次の日、無秩序に広がりつつある髪にストレートパーマをかけに行った。
ストレートパーマをかけるのは10年ぶりくらいだろうか・・・
「これからは後ろでしばってラクするんだモン」
その日は、またじんじんや鈴木さんと平井にあるお店「桃李」へ出かけて
夕食もラクに済ませてしまった。
「こんな時くらいラクに楽しく過ごして少しでもストレス減らさなきゃ」
「で、深夜までお茶しちゃうワケ?」
「でもちゃんと寝てるから平気だよ」
「会社で・・・」
「ちゃんとトイレで寝てるよー」
「あー? ちゃんとぉ??、ちゃんとってなんだよ、ちゃんとって」
「背筋伸ばして、こう・・・」
みんなの心配をよそに、気持ちだけは元気な京子だった。

-つづく-