大ガードの夜景 第48話  『 やいま(3) 』

与那国からYS-11で石垣に戻った3人は空港で「海(カイ)」さんというniftyの
育児フォーラムで知り合った人と落ち合った。海さんはもともと石垣の人ではなくて
八重山が好きで家族で移住したという強者だった。それでもさすがに子供の事を
考えると診療所の無い「離島」には住めず石垣が限界だという事だった。
海さんは息子の鳴海(なるみ)君とともに空港に現れた。初めて会うのだが
乳児抱いてスーツケース引っ張っている家族も他にはいなくて、すぐ「きょんさん!」
と声をかけてきた。3人は海さんのtoppoに乗り込み近所の沖縄料理屋へと移動した。
大人3人と子供2人だから軽自動車の定員は微妙に越えている気がしたが、ここは石垣。
店は座敷で、はいはいの出来る鳴海君は他の席へ移動して愛想ふりまき小春はひたすら
寝返りの練習をしていた。そして食事が終わった頃、小春はついに初寝返りを成功させた。
食事会は楽しく終わり、次回来る時は是非泊まれる様に日程組んで、鳴海と小春チャンと
海で遊ばせたいねなんて事で海さんと別れた。
海さんには離島桟橋まで送ってもらったのだが、続いて同じ日程でヤイマに来ていた
よんきち夫妻とも会う約束をしていた。730ロータリーに出たところで電話入れようと
ウロウロしているとよんきち達がスクーターで通りがかった「おわわっ奇遇ね」
「ナイスタイミングでした〜」と5人はA&Wに入りしばしお茶。しかしお約束のルートビア
はだれ一人として飲もうとしなかった。
そろそろ波照間行きの船が出るので、と皆で離島桟橋の所定の位置へ行ったのだが
じんじんが船の会社を間違えて覚えていて、とうに船は出てしまっていた。
げげ、じゃこの時間はあっちの船だ、と安栄観光の船着場へと走った。
キップを買う時間も無く船にかけこんでギリギリセーフ。この船を逃したら今日波照間
へは渡れない。甲板で息を整えていると「じんじん!!ゆかこゆかこ!!」と岸壁にいる
よんきちが叫んでいる。「え?」と振り向くとデーパックを背負ったバイク友達の
ゆかこさんが同じ船に乗っていた。会う人とは会う、というのはよんきちの言葉だが
久しぶりの再会が波照間行きの船。しかも間違えで乗った船、というのもなんか
不思議な感じだとじんじんは思った。
波照間行きの船はそのすさまじい揺れが有名だ。石垣〜竹富の船も速いのだが
波の無い海域なので揺れは少ない。が、波照間までの間は深くて波がそれなりにある
海域を同じスピードで突っ切るものだから、揺れ、というより無重力状態と水面に
叩きつけられる衝撃の連続になる。そして揺れは船首が一番激しく、乗客のほとんどは
船尾にいる。じんじん達も船室の後ろの方に陣取りその揺れに耐えていた。
すると船首付近にいたいかにも観光客っぽい夫婦が上下動のあまりのすさまじさに
耐えられなくなり、やめればいいのに席を立とうとした。女性は前の座席に胸をしたたかに
打ちつけた。ダンナは怒り狂って騒ぎはじめ、船を停止させてしまった。
「いったいどういう運転してんだ!!」怒っているが、元々こういう運転なんでがまん
しなよ、と乗客になだめられ、どうにかその二人は後ろに移動して船は止まっていた
時間を取り戻すがごとくのスピードで無重力運転を続けた。京子は片手は座席の把手。
片手で小春という状態で上下していた。

- つづく -