大ガードの夜景 第44話  『 半退院生活 』

京子のライナックは合計26回という事でスケジュールとしては4月初めに退院
出来る計算だった。が、白血球減少やその他胃腸の不調などがひどければ
それらが安定するまでは入院という話であった。
しかし、下痢がひどい事以外は快調だった事もあって京子は週に2回くらいは
外泊で家に帰っていた。以前に比べれば病院にいる時間も短いし、家族と過ごせる
時間は長いのだが、それでも病院にいる時は「もう3カ月以上もいる」という事からユウウツな気分になりがちだった。
じんじんは基本的に毎日会社の帰りに寄ってくれてはいたが、やはり面会終了の
20時に間に合わなかったり出張が入って来られないとかいう事も時々あった。
そういう時、病院にいなきゃならないのを我慢する方法として京子は「がん保険」の
給付金の事を考える様にしていた。 京子の入っていたAlicoのがん保険では
がん治療での入院ならば1日2万円が支給される。京子はベッドで悶々としていても
「ねてりゃ一日二万円だ!」と思うと気持ちが楽になり、時によっては薄ら笑いさえ
浮かべていたりした。
じんじんは京子の退院を前にSTEP WGNの商談を開始した。京子の同じ病室にいた
女性がいつも世話になっているHONDA クリオの人を紹介してくれたのでまずはそこ。
そして家の近所のベルノでも見積もりを取り少し競わせる事にした。
STEP WGNは2列目シートが畳めるタイプと回転対座タイプがあったが
バイクを積めるという事と3列目はそうそう使わないから二列目が広くて使いやすい
方が良いという事で折り畳みタイプ。そして冬の北海道へも行ける様にと
4WDを選択した。二人はバイクしか持っていなかったので、冬の北海道を自走する
という事に憧れていた。クリオの鈴木さんによると、今出ているのは9割が回転対座で
折り畳みだと納車が5/25になるという。GWには車が無い、という事だ。でも
それだけのために仕様を変えるのは不本意なのでじんじんは仕方なく待つ事にした。
京子は病院と自宅と実家と行ったりきたりの生活を続けていたが、3月後半になると
ライナックの影響から来る胃のムカムカ、腹痛、下痢、皮膚のヤケドがぐじゅぐじゅに
なったりとそれなりに大変な状況ではあった。それでも外泊許可さえ出れば気合で
家に帰り、そしてまたあの大ガードをくぐるコースで門限ギリギリの20時に病院へ戻る
という事をしていた。
そんな3月の終わりの日曜に「花見くらいは毎年やろう」と言っている大学の同期が
今回は京子が遠出出来ないからと、善福寺公園へ花見に来てくれた。が、京子は
体調絶不調で出られず、花見の後のお茶@デニーズだけ少し顔出した。
みんなが帰った後じんじんと京子は家の前でヘールボップ彗星のぼやけた姿を
しばし眺めていた。
「そろそろ病院もどんないと・・」
じんじんは空を見上げたまま京子の肩を揺すった。
「そーねー、ユーウツだけどもうちょっとだもんね・・・それに・・・」
京子はそこで一呼吸入れると咳払いをした。
「オホン・・」