大ガードの夜景 第43話  『 ライナックと食欲 』

2/25京子の放射線治療が開始された。それにはライナックという機械を使うらしく
病院では「今日のライナックは何時からね」といった言葉で表現されていた。
ライナックはリニアアクセラレータの略。
電子をマイクロ波を利用して加速し高エネルギーX線を作る機械らしい。
京子のお腹には事前のCTスキャンで得られた情報を元にX線を照射する部位を示す
ラインが引かれていた。それはいくつかの区画に分かれていて、部位によって
線量を変えているらしい。X線は一般の細胞と癌細胞を区別してくれるわけではなくて
一般の細胞にも影響が出るため、なるべく余計な所には当たらない様にしなければ
ならない。予定では5週間。つまり3月の終わりには退院、という事である。
退院が見えたものの京子は精神的なストレスからか、胃がムカムカして食欲がわかなかった。
それがライナックが原因ではなくて、いかに気分からきているものか、というのは
じんじんが見舞いにきている時間だけは好きな物に限ってなら食べられるという事から
良くわかった。まさに病気は気からなのだ。
じんじんはその事を知って、次の日、出張のついでに新宿で京子が好きそうな
おいしい物、タカノのフルーツゼリーや飲むヨーグルト、梅干しなどを買いあさって
早めに病院に向かった。
病室についたじんじんは、京子が見慣れないウインドブレーカーを着て何かゴソゴソ
やっているので何かと思ったが、それは熊本のちょびさんの背中だった。
ちょびさんはniftyのバイクの集まりで知り合った女性で、小柄ながらセローに乗れば
九州最速(かも!)とまで言われたライディングテクニックの持ち主だ。
しばらくアメリカに行っていて最近帰り、九州に戻るまでしばらくこっちにいるので
みやげ渡しついでにお見舞いに来てくれたのだそうだ。
「ありゃ珍しいヒトが! 京子かと思ってびっくりしたよ。見慣れないジャケットだし」
じんじんは思いがけない来客に喜んだ。京子はトイレに行っていたらしくすぐベッドに
戻ってきた。ちょびさんとしばし懐かしい話をし、彼女が帰ると京子はためいきをついて
今日も夕食が喉通らなかったとかグチの様に言いはじめた。じんじんは買ってきた
タカノのゼリーを出し「じゃーコレもたべらんないかぁ〜たべちゃおかなー」と
ゼリーの容器をスーッと顔の前にもっていって見せびらかした。
「ゲッ! それは別かも・・」京子はパッとその容器を奪った。
「あとー梅干しとかーヨーグルトとかー・・は窓の冷蔵庫にいれとこね」
「あ、あうぅ・・」京子はとりあえずゼリーだけで我慢する事にした。
次の日も朝から腎盂腎炎とやらで尿は濁るは腰は痛むわ相変わらず胃はムカつくわで
見舞いに来てくれた妹の妙ちゃんにあたりついていた京子だが、夜じんじんが現れると
なんか食べられそう、とか言って昨日のヨーグルトを持ち出して食べはじめたりしていた。
やはりライナックの影響ではなさそうだった。

- つづく -