大ガードの夜景 第42話  『 水 』

排尿障害は別として手術の経過自体は良かったので、その週末は外泊許可が出た。
京子は早速、妊婦時代に整体で世話になった癒しの森の志村季世恵先生に電話をしてみた。
事情を話すと先生は京子に「磁気共鳴水」を勧めた。「あー・・そうキタか・・」
整体とカウンセリングについてはとても信用している先生だけに自分がまゆつばだと
思っている事を言われ京子は複雑な心境になった。話によると、なるべく新しい尿を
持ってきてもらって、それを元に今、体に不足しているものを補う水をつくるのだとか。
べつにそれを元に、といっても尿を加工するわけではなくて尿はあくまでも
体調の情報源として利用するだけらしい。
一回作ってもらうのに6000円。作った水は薄めて飲むので、それで何回分だかになる
らしいのだが。しばらく悩んだ末、京子は一度だけどんなモンか試してみる事にした。
次の日、朝一番の小水が良いという事で早めにじんじんに来てもらい、取った小水を先に
癒しの森に運んで水を作ってきてもらった。
じんじんの話によると、それはもうまゆをつばでぐちょぐちょにして半渇きにして
においぷんぷんさせても物足りないくらいのまゆつばだったらしい。
疑問に思った事をすべて質問して納得行く説明をしてもらってたら何日たっても
終わらないと思ったじんじんは何も言わずに、その磁気共鳴水とやらの作製工程を
見ていたのだそうだ。
まずノートパソコン2台横に並べたくらいの平べったい黒いケースの上、少し左寄りに
用意した尿(フィルムケースに入れておいた)を載せ、右寄りの所に小さなビンに入れた
「気を入れた特殊な水(!!!)」を置く。そして担当の先生はおもむろにACアダプターを
コンセントにさして、機械の電源を入れ、タイマーをセットした。
説明によると、その機械の上には磁場が発生し、尿の分子レベルの情報を隣の水に
コピーするのだという。そういう微妙な磁場の変化を利用出来るデリケートな機械
なのだとか・・・でも・・分子レベルの情報って??何???
機械についても少し電気の知識がある人間なら、すぐ「だめだそりゃ」とわかる
シロモノだった。100万歩譲って、その磁場で水にコピー出来る情報が尿にあったとして
尿を通過する事で変化する磁場の変化量はその横で使っているACアダプターから漏洩する
磁場の変化で見えなくなるであろうし、それ以前に電灯線が壁の中を走っている室内で
むき出しの環境。デリケートな磁場もなにも無いだろう。
更にACアダプターから供給されるノイズだらけの電源を元に生成した磁場でどんな変化が
見えるというのだろう。東京電力の発電所で冷却水に使えば機械の調子が良くなる
「50Hzの情報」でもバッチリ焼きついた水が出来ているのではないだろうか。
まあ面白い物を見せて頂いたとは言え見物料として6000円は高いとじんじんは思った。
午後、京子は癒しの森に整体に出かけ、磁気共鳴水について少し説明されたが、やはり
ココは整体と心のカウンセリング以外関わらない方が良さそうだと感じた。
信じる事が効果につながるとはわかっていても、信じるには裏づけがなさ過ぎた。
複雑な心境で癒しの森を後にした京子は春一番が吹き荒れる中、自宅へと足を早めた。

- つづく -