大ガードの夜景 第40話  『 三度目の正直 』

火曜日も何も無いまま一日が終わろうとしていたが、夜、じんじんが来てから
二人はナースステーションに呼ばれた。
二人は顔を見合せ、祈る様な気持ちでナースステーションに向かった。
リンパ節転移があるかないかは癌が治るか治らないか、の差と言っても過言ではない。
今まで癌宣告なんて最初の一回の事だと思っていたのだが、実はそれから
手術の時、そして手術後の細胞検査結果と続き、しかも事と次第によっては
最初より重い事実を言い渡されるのである。
仮に今回OKであっても、今後最低5年は検査の度に「再発」に恐怖しながら結果を
聞かなければならないのだ。
「再発宣告」は最初の「癌宣告」と同値であるし、一度癌宣告された者は一生その
宣告を受け続けなければならない。癌とはそういうものなのだった。
ナースステーションに顔を出すと笠原医師が、こちらへと二人を促した。
カウンターの隅に3人は座ると、笠原医師は「早速ですが」とカルテと検査結果の紙を
前に出して説明を始めた。
結果はクロであった。リンパ節にも転移していたのだった。
京子にとっては死刑宣告と大差なかった。
今後は来週から放射線治療を始めるという説明だった。
もう随分前に「効果は期待出来ない」と説明を受けた治療法をやるというくらい
なのだから、いかにどうにもならない状態なのかはシロウトの二人にも良くわかった。
もともと頼り無い感じの笠原医師だったが、この時は本当にどうしようもなく頼りなかった。

手術までは、腫瘍はまだ外には出ていない様子だからと、薬の動脈注射で病巣は
小さくなっているからと、そう説明され続け、手術で取り除いた臓器には
シロウト目にもソレとわかる何かがはみ出ていて、更に結末はリンパ節転移。
本来なら、もう信用出来ないと、ケンカして病院を出てもおかしくない状況だったが
その時は、目の前につきつけられた「リンパ節転移」という事実だけが
二人の頭を支配していてもう言葉も出なくなっていた。

手術までのルーティーンは、西洋医学として道筋が出来ていて
確かに笠原医師も自信をもって(医学的には)「ベスト」といえる処置をしてきた。
ある意味、そこまでは何も考えなくてもそうするしか無かったのだ。
しかし、ここから先は・・・
そう、実は京子、じんじん、小春にとって、ここからが本当に良く考えて
自分の意思で行動していかなければならない時なのであった。
しかし、二人の頭は「とにかく放射線やろう・・」という方に流れてしまっていて
「放射線治療を受けるべきではなかったかもしれない」という事に気づくのは
京子の放射線治療が終わってから半年もたってからなのであった。

- つづく -