大ガードの夜景 第39話  『 トレーニング 』

京子は手術の翌々日からトイレに立つ様になって食事も流動食、全がゆと
少しずつ元へ戻していった。が、体が回復してくると早速異常が現れた。
それは「突然体がほてる」というものだった。
これは京子の母親が更年期障害に悩まされる様になった頃に良く言っていた症状だった。
「もう来たか・・・」京子は別にいつからそうなるか予想していた訳ではなかったが
あまりに早くソレが現れたので少し焦った。
手術から5日後、排尿トレーニングを開始する。3時間おきにトイレへ行きおしっこ。
そして導尿管で残りを出し、自力でどの程度の残尿量まで絞れているのかを見る。
3時間おきというとたいした事無い様に感じるが、ベッドでゆっくりしてたいと思うと
この3時間がせわしなく感じるのだった。
まともに排尿出来たのはトレーニング開始から3日目だった。
その日は建国記念日だったので朝からじんじんが小春を連れてやってきた。
じんじんは小春を病室に置くと馬喰町のアカチャンホンポへと出かけて行った。
それと入れ違いに京子の妹の妙ちゃんがやってきた。
バレンタイン用にと頼んでおいた生チョコ「銀座の石畳」を買って来てくれたのだった。
丁度じんじんが出かけた後で良かった、と小春の相手をしながら二人はしばらく話をした。
排尿トレーニングは、うまく行ったかと思うとまた全然出なかったりと
実はさっき出たのは偶然だったのかも、と思う程で、遅々として進まなかった。
300ccくらい出るかと思うと、次は出ず、残尿も20cc。で、やっぱり無かったんだ
と遊んでいたら突然腰痛に襲われ、導尿してみるとたまりすぎで痛くなっていた事が
わかったりといった具合だった。
バレンタインの日、京子は先日妙ちゃんに仕入れてもらったチョコをじんじんに渡した。
じんじんも今年は無いだろうと思っていただけに喜んだ。京子もじんじんが喜んでくれた
事がとてもうれしかった。二人とも子宮や卵巣を取ってしまった事は全く意識の外にあり
京子は今までのバレンタインと同じにじんじんの事を想い
じんじんも去年と変わらないキスをしてあげられた。
週末にじんじんの中学の後輩、井本夫妻が京子の見舞いに現れた。そろそろ初節句だと
木で出来た小さなお雛さまと桃の花を持ってきてくれたのだ。今の所、小春の初節句の時は
病院にいるはずなので、お祝い自体は来年かなーと京子は思ってはいたが
病院にいても初節句はお祝い出来るから、と、小さな雛人形を窓辺に飾る事にした。
その日はヤスコ夫妻も現れ、小春に帽子やGAPの洋服をプレゼントしてくれた。
次の日、じんじんは小春にそのGAPの服を着せて病院に現れた。小春はずっとツナギの服
ばかり着ていたのだが、その服はちゃんと上下に別れていたので、なんか突然成長したか
の様に見えた。が、当の小春はほとんど寝てばかりであった。
その週末が終わると、多分週明け早々に、あのいまいましい細胞検査の結果が出るはず
だった。京子はみんなが来てくれることと、排尿トレーニングにまぎれさせてその事を
わざと考えない様にしていた。考えても結果は変わらないのだ。
しかし、日曜日みんなが帰ってしまうと、京子の頭はその事に支配されてしまい
なかなか寝つけなかった。明けて月曜日も「結果はいつ?」と先生に聞く事も出来ずに
いつ来るか、とビクビクしながら過ごしていた京子だが、午後ついに耐えられなくなり
会社にいるじんじんに電話し、夕方早めに来てくれる様に頼んでしまった。
じんじんは17:30頃に病院に現れたが、結局その日は何も無く終わった。

- つづく -