大ガードの夜景 第33話  『 小春退院 』

お正月気分も抜けつつある1月25日、生まれてから66日目にして小春はようやく
シャバへ出る事になった。体重も一端の新生児並の3400gになり、大分しっかりした
感じであった。大きさは生まれたばかりの赤ん坊であったが、やはり2カ月も外界に
いたからか、肉付きもいいし見た感じはしっかりして見えた。
産婦人科の看護婦達は、長い間面倒見てきた小春が退院するという事で
つぎつぎに小春を抱っこしに現れた。
京子と京子母は病院で調乳指導を受け、午後には小春を連れ家に戻った。
子供が生まれて2カ月目にして、初めて一家3人が家で過ごした。
早速、縫ったおむつを使い、出産祝いにもらった哺乳瓶で授乳し
そんなアタリマエの時間もつかのまで、日曜の夜にはまた京子は病院へと
戻らなければならなかった。
病院へ向かう途中、車はまた新宿大ガード手前の信号で止まった。
京子には歌舞伎町のネオンがまぶしかった。
外泊を終えて病院へ戻る時、毎回の様に見るこの光景。
京子にとって病院での生活に戻る事とのコントラストからか
何か特別な感じを受けるのだった。

京子が病院に戻ってからは、夜はじんじんが、昼は京子母が小春の面倒を見た。
京子母は子供たちが手から離れて、ようやくゆっくり出来るという歳になって
もう一度子育てを経験する事になった。
3人育てたといっても、赤んぼだったのはもう30年近く昔の事。ほとんど覚えていない。
小春は泣いてばかりで、長時間の抱っこは、もう還暦という京子母の腰には
キツかった。それでも、なんかぼんやりと過ごしていた生活にハリが出て
少し若返ったかの様な感じもしていた。

じんじんは毎日、会社から京子の病院経由で京子実家に帰ると夕飯を食べて
小春と風呂に入り、小春を抱いて自分のマンションへと帰った。
京子実家からは歩いて3分程の所ではあったが、北風の吹く中、赤ん坊を抱いて
誰もいない寒い部屋に帰るのは気分的にしんどい物があった。

小春はもう夜の間はずっと寝ててくれるくらいにまでなっていたので
じんじんは2〜3回徹夜した事もあったが毎晩深夜の授乳で寝不足蓄積という事はなかった。
ただ、小春は抱っこして、しかも外に出ないと寝てくれなかったので
それが大変だった。ベッドに置くのに失敗して起きてしまえば、もう一度
同じコースを散歩して来なければならないのだ。
夏なら夕涼みがてら、という感じではあるだろうが、よりによって一年で一番寒い時期。
「こいつ、寒くて寝られないって事ないんか?」
じんじんはわが子ながら、あまりにアウトドアな小春に少しあきれていた。

- つづく -