大ガードの夜景 第32話  『 お正月 』

年始は小春の退院に向けて、ベビーベッド等を買い揃えた。
1月2日は小春の予定日、この一カ月半は京子にとってとても長く感じられた。
入院騒ぎ以来、初めて風呂にも入ったし、充実した正月休みだった。

病院に戻ると、すぐ抗ガン剤第二クール。京子は前日にまた主治医から説明を受けた。
腫瘍マーカーはもう普通の人並に下がっていて患部もとても小さくなっているとの事。
それでももう一度薬入れて、手術もするし、その後も手術の結果次第ではあるけれど
放射線もやる事になった。もうそれくらいしかやる事が無い、という事なのだ。

第二クールは、何故か眠くて一回目みたいに楽しめず、あっと言う間に終わってしまった。
夕食に出た七草がゆもおいしく食べられたし、なんて事はない。
将来は手術なんてしなくて、こんなんで癌が治る時代が来るのだろうか
京子はそんな事を思った。

京子が第二クールを受けた次の日、同室の佐藤さんが、京子が予定している手術と
同じ内容の手術を受けた。手術から帰って来た佐藤さんはぐったりとしていたが
話によると切除した部分に目視では癌は見られなかった、とのこと。
それでもとらなければならなかったのか、とも思うが、残すにはあまりにリスクが
高過ぎた。

第二クールの薬の影響も特に心配なさそうなので、京子は週末の度に外泊し
外や家でおいしい物を食べ、いろいろ散歩して元気の元にしていた。
じんじんさんと行った神保町のスマトラカレー&焼きリンゴ
鈴木さんと行った亀戸の侍のコーヒー
新小岩の行きつけのラーメン屋
どれもたいした事ではないけれど、病院にいる事に比べたら、100倍楽しかった。
普通の生活を送る、という事の大切さが身に沁みてわかる時間であった。

平日病院のベッドで、京子は佐藤さんとだべりながら小春のおむつを縫っていた。
新しく買った布もあったが、自分が生まれた時におむつに使った布の余りもあり
時代が一つ変わったというちょっと不思議な感覚に浸っていた。
世の中はもうだいぶ紙オムツに移行してしまっていたので
その姿を見た人はみな「珍しいね〜」と京子に声をかけた。
「布おむつにおむつカバーだと蒸れるんじゃない?」
「おむつカバーはゴアテックスのにしたし、こまめに変えればそんな事ないですよ」
「?ゴア?」
そんな感じであった。

来週あたり、その小春も退院となる予定だった。

- つづく -