大ガードの夜景 第17話  『 引っ越し 』

京子の実家のある杉並への引っ越しの日が迫っていたが、京子の体調は相変わらずで
元気は元気なのだが、おとなしくしていないと出血する事が多かった。
別に痛いわけでもないが大量に出血してしまうとまた入院というややこしい事になるので
出血する度にゴロゴロする様にしていた。そんなこんなで荷物はなかなかまとまらなかった。
片づけしていてもお約束の「懐かしい物見つけて見入ってしまう」のはしょっちゅうだし。
結局週末にじんじんがまとめて動いた分だけが片づくという感じであった。
引っ越しの直前になって、突然久しぶりにモリケンが現れた。モリケンはあだ名ではなくて
本名、名字が盛で名前が顕だからモリケン。相変わらずハイで落ち着かない様子。
京子とじんじんは子供が出来てしばらくはアクティブにバイクに乗れないだろう
ということから125ccを処分する事にしていた。そこでじんじんはモリケンに
「TZR欲しければタダであげるよ」と持ちかけたところ、モリケンは喜んで
早速明日メット持って取りに来るとウキウキしながら帰って行った。
引っ越し作業はじんじんが大学時代にバイトしていた「ハトのマークの引っ越し専門
松戸センター」に頼んでいた。仕事の中身が分かっていて安心して頼めるからだった。
引っ越し屋もピンキリで、別にブランドで頼めば絶対OKという事はなくて実際に作業する
運送屋のウデ次第なのだ。当日、引っ越し屋は予定していた人数に+1名で現れた。
手が空いてたので料金そのままで一人追加してくれたらしい。おかげで予定より早く部屋が
片づいた。寝室の畳を見るとベッドや家具の形が青く残っていた。電灯を外した薄暗い室内に
弱い秋の日が差し込み、畳を照らしていた。じんじんは5年前に初めてここに来た時の事を
思い出していた。ガランとした室内は、その時のままの様に見えて、細かい所は
いろいろ違っていた。ベランダで掃き掃除をする京子も今は明らかに妊婦の姿をしている。
結婚してここで過ごした5年はその時思い描いていたよりずっとずっと楽しく、充実した
素敵な毎日だった。結婚式の準備に追われていた頃、良く年配の人に「今が一番楽しい時ね」
なんて言われたけれど、なんの事はない、結婚してからのがよっぽど楽しいではないか。
そしてこれからの生活も家族が増え、場所は親しい友人達からは離れてしまうけれど
きっと今思い描いているより素敵な日々が来るに違いないと思うのだった。
じんじんは台所の流しによっかかってぼんやり、ベランダにいる京子を眺めていた。
掃除を終え、けろっぴのサンダルを引き上げる京子の顔が少し笑った様に見えた。

-つづく-