大ガードの夜景 第13話  『 ランク2 』

「えーとですね」斉藤先生は京子とじんじんを前に先日の検査結果と、新小岩の産婦人科
でやった最後の検査の結果の説明をはじめた。「うちの病院でやった検査では、ランク2
でした。つまりガンの疑いは無いって事ね。」一瞬喜ぶ京子、しかし先生はそれを見ているのか
見ていないのか、反応せず言葉を続けた。「でも前の病院でやった検査はやはり3aですね、
まあ、細胞取る場所によっても多少バラつくので、もう一度検査しましょう。で、出血の
具合見て明日か明後日には退院という事にしましょうか。」
かなり微妙な結果だった。今までに何回か検査してランク2が出たのは初めてだし、それが
出たからといって疑いが晴れた訳ではない。やはりはっきりさせるには組織を切り取って
検査しないとダメなのだ。もう一度検査、というのは次の段階の検査のために単に
この病院での結果として3という結果が欲しいのではないか・・・京子はそんな事を思った。
「今まで何人かランク3の患者さん見てるけど、その後悪くなった人いないから・・・でも
妊娠中っていうのは珍しいんだよね大抵は妊娠する前に定期検診なんかで見つかるから。
妊娠中は子宮のまわりも普段とぜんぜん違うからね、何かあった時に処置も難しいし
診断もつけにくいんですよ」
京子は、過去2回も子宮ガン検診をパスしていた。一度は仕事が忙しくて都合がつかず
もう一度は検診日と生理が当たってしまって行けなかった。そして3回目を受ける前に
妊娠してしまったのだった。本当なら、ちゃんと検診を受けてから子供の事を考えるべき
なのだろうが、まさかこんな事になるとは思っていなかった。
「いずれにしても、出産してからちゃんと検査しましょうね、それまで会社は休んだ方が
いいでしょう」先生はそうしめくくった。
今回の検査でランク2が出た事で、京子の心理的負担はかなり少なくなった。もちろん
3の結果が何回も出ているので疑わしいのは事実なのだが、疑わしいなりに悪い方ではなくて
良い方の確率が高くなったという風に京子は理解していた。実際、それくらいに思わなければ
とてもやっていけない気持ちであった。
京子はこの一週間、自分や赤ちゃんの命とじんじんの事をいろいろ考えた。
初め、自分か赤ちゃんかどちらかが、または二人とも死んでしまうかもしれないという
恐怖に襲われた。そしてもし命に関わる病気だったとしても、どういう処置がされるのか
わからないけど赤ちゃん殺してまで自分だけ助かりたくはないと思った。
しかし「赤ちゃん残してお母さんいなくなっちゃったら、お父さんはどうなるの? もし
二人とも死んじゃったら世捨て人になって新宿の大ガード下あたりで寝てくらすのかなぁ」
というじんじんのつぶやきを聞いた京子は、この人の前からいなくなる事なんてできない
赤ちゃん殺してしまうことになっても、この人のために生きていかなくちゃならない
いつまでもちゃんと一緒にいなくちゃいけないという思いを強くしたのだった。
でも今回ランク2という検査結果が出たことで、京子はそういうモヤモヤした思いから脱し
「きっと3人で過ごせる日が来るに違いない」という気持ちになれた。
消灯時間、京子は一言「良かったね、じんじんさん・・・」とつぶやく様に言い目を閉じた。
お腹の子がモゾッと動いた。

-つづく-