大ガードの夜景 第11話  『 奇遇 』

入院して次の日、止血剤点滴が効いたのか京子の出血はほぼ止まっていた。
「あんまり効かないんだけどね、もう少し続けましょう」朝の回診で斉藤先生は
そう言って点滴の落ちる様子を見ていた。
「だったらするなってーの」京子はそう思ったが、まあほぼ止まってくれたので
さっさとはずして欲しいという気持ちは強かった。お腹に赤ちゃんいるんだし
余計な薬は体内に入れたくなかった。
「でも止まったみたいだから、早速検査しましょうね」先生はそう言うと次の患者さん
の方へ移動していった。
じんじんは今日も結局出社に至らず、昼過ぎ迄寝ていたが、午後、京子にたのまれた
買い物をして病院に現れた。
「へー、もう検査したんだ」「でも結果はずっと後だけどね」
病院の前にあるモスバーガーで買ってきた「ナンカレードッグ」を分けながら二人は
しばし話をした。じんじんが帰った後、入れ違いでのりとさいかーがお見舞いに来て
くれた。昨日突然入院したばかりで平日にも関わらずお見舞い第1号が来てくれたので
京子はうれしかった。のり達が帰るというのでエレベータまで見送って病室へ戻ろうとした時
「きょんさん? きょんさんでしょ?」と京子を呼ぶ声がした。京子はniftyでは「きょん」
というハンドルで出ていたので、niftyの知り合いはみんな京子をそう呼んでいた。
「?」京子は一瞬その赤ちゃんを抱いた女性が誰だかわからなかった。話をするとバイク
の集まりで知り合った「七番」氏のヨメさんだった。彼女とは彼女の結婚式の二次会で
一度会った事があるだけなのに、良く顔覚えてるな、と京子は感心した。
七番氏からはヨメさんの地元が錦糸町の方だとは聞いていたのだが、まさか同じ病院にいるとは
思わなかった。だいたい、赤ちゃん出来たなんて話も知らなかった。
「双子なのよ」彼女は赤ちゃんを一人だけしか抱いていなかったが、一人は新生児室に
いるらしい。京子が昼間新生児室で見ていた双子の一人は、彼女の子供だったのだ。
「昼間見てたのよ〜、なんか見覚えある名前だなとは思ってたんだけどさ」
niftyの仲間とは大抵ハンドルで呼び合ってしまうので、なかなか本名は認識できないのが
常なのだった。「二人いっぺんだと、しばらく育児大変そうだけど、なんか楽しそうで
いいなぁ」京子は自分が3人兄弟なので、自分の子供も3人は欲しいと思っていた。しかし
今はそんなことより、まずお腹にいる一人目を無事出産する事が最優先だった。
例えもう子供を作れない体になったとしても、お腹の子が無事、健康な姿で生まれて
くれればそれで十分だと、そう思っていた。

-つづく-